筆者は32歳独身男性。最近、とある女性にフラれた。というか正確に言えば告白しておらず、フってさえもらえなかった。惨敗というやつだ。その女性は以前紹介した悪女映画のヒロインたちよりも魅惑的な人だったので、そもそも非モテな筆者が付け入るスキはなかったのだろう。
一方で周りを見れば徐々に結婚・同棲している人も増えてきた。特段焦りはないが、漠然と誰かと向き合いたいという思いが強くなっている今日この頃。
どうすれば向き合えるのか、見つめ合えるのか。そのヒントを得るために、筆者は今まで何度も自分を救ってくれた「SFロマンス」という映画ジャンルにすがることにした。話題のヒット作『ファーストキス 1ST KISS』はもちろん、今まで鑑賞してきたSFロマンスの中でも思い出深い作品を再鑑賞しているうちに、同じく恋愛にもがいているアラサー世代諸氏にもその魅力を伝えたくなってしまった。
そこで今回は、SFロマンス映画の魅力やおすすめ作品を紹介する。SFとロマンスという何かと駄作になりやすいジャンルのかけ合わせだが、稀に観客を沼らせる良作も生まれるのがSFロマンス映画の世界。映画好きはもちろん、映画から恋愛や人生のヒントを得たい人は最後まで要チェックだ。
恋愛に向き合うアラサー男女に観てほしいSFロマンス映画の世界
突然だが、2025年3月現在大ヒット上映中の『ファーストキス 1ST KISS』をご存知だろうか。日本を代表する脚本家・坂元裕二とヒットメーカー・塚原あゆ子が手掛けたSFロマンスだ。邦画らしい繊細な恋愛描写が評判を呼び、各メディア・口コミで「倦怠期気味な夫婦・カップルを仲直りさせる映画」として名高い。個人的観測レベルでも、筆者の周りの友人カップル・夫婦は本作で倦怠期を脱している。
改めて映画のパワーを感じさせる作品なのだが、筆者はなんとなくこう思った。
「恋愛と真剣に向き合うアラサーだからこそ、SFロマンスは観ておくべきなのかもしれない」
詳しくは後述するが、SFロマンスには普通の恋愛映画にはないメッセージ性や仕掛けがある。昨今話題を振りまいている『ファーストキス 1ST KISS』だけでなく、過去の名作・良作SFロマンスも観るものの心を動かしてきた。だからこそ、恋愛や人生に向き合っているアラサー世代へ、少女漫画やファンタジー作品よりも少し大人なSFロマンスをおすすめしたい。
SFロマンス映画(SF恋愛映画)とは?
そもそも「SFロマンス映画(SF恋愛映画)」とは、映画のジャンルである“SF(サイエンス・フィクション)”と“ロマンス”の要素を掛け合わせたもの。未来の科学技術・宇宙・特殊能力・超自然的危機など面白いSF設定を土台にしつつ、登場人物たちの恋愛模様や成長を描くのが基本スタイルだ。SF的な変わった仕掛けによって普通の恋愛映画にはないメッセージ性を帯びることもあり、色々な経験を経たアラサーの胸を打つジャンルといえる。
『ファーストキス 1ST KISS』だけじゃない! 恋愛したくなるおすすめSFロマンス映画5選
SFロマンス映画の中でおすすめ5作品を紹介する。『ファーストキス 1ST KISS』に負けずとも劣らない映画史に残る歴史的傑作から、マイナーながら確かな魅力のある良作まで揃えているので要チェックだ。
『エターナル・サンシャイン』(ミシェル・ゴンドリー監督)
恐らくSFロマンス映画史上の最高傑作である。2004年アカデミー賞(脚本賞)を獲得したほどの緻密なストーリーや、本作ならではの卓越した映像表現は目を見張るものがある。アラサーどころか、全世代に問答無用でおすすめできる作品の一つだ。
『エターナル・サンシャイン』のあらすじ(ネタバレなし)
舞台は「任意の記憶を除去できる手術」が医療提供されている時代。どこか頼りなさげな平凡な男・ジョエルは、彼女・クレメンタインが喧嘩の末に自分との記憶を除去したことを知る。驚きと消失の末に、ジョエルは自身も彼女との記憶の除去手術を受けることを決意。彼女との記憶を巡るジョエルの”脳内旅行”の結末とは。過去に思いを巡らせる主人公の傍ら、現実世界を生きるキャラクターたちのサブストーリーも必見。
『エターナル・サンシャイン』のスタッフ・キャスト
映画監督のミシェル・ゴンドリーと脚本家のチャーリー・カウフマンがタッグを組んでいる。ミシェル・ゴンドリーは『恋愛睡眠のすすめ』など一風変わった恋愛・ドラマ映画を手掛けた変態的監督、チャーリー・カウフマンは『マルコヴィッチの穴』などの奇想天外な作品を世に送り出してきた奇才だ。一部の変態ならばこの組み合わせというだけで、本作が映像・脚本どちらも優れている作品なことは察しがつくかもしれない。
主演は『マスク』『トゥルーマン・ショー』といったコメディ作品で知られるジム・キャリーと、『タイタニック』『愛を読むひと』などで実力派女優として盤石の地位を築いたケイト・ウィンスレットが務める。個人的にはジム・キャリーの意外な表情や、ケイト・ウィンスレットのベストアクトを観れるだけでお釣りがくる。
『エターナル・サンシャイン』の魅力
SFロマンス映画の多くは独特な設定や世界観がありながら、あまりそれを活かすことなく陳腐な恋愛ストーリーにしがち。しかし、『エターナル・サンシャイン』はSF設定を存分に活かしながら、ロマンスとしてのストーリーラインもほぼ完璧に成立している類稀なる作品だ。過去・現在・未来、そしてサブストーリーが絡み合う展開は、チャーリー・カウフマンの手腕が存分に発揮されている。
観客を夢中にさせる映像演出も魅力だ。「ショップで絶望している主人公とリンクするように背景が暗闇に包まれ、その瞬間にリビングに帰宅する」といった場面転換や、主人公の脳内旅行中に「幼児期の記憶へ遡ると主人公が子どもの大きさになる」などの演出がユニークだ。コメディチックな場面は楽しく刺激的に、そしてシリアスな時は怖くて切ない。そんな視覚的な面白みを感じさせるのはミシェル・ゴンドリー作品ならではの魅力だろう。
本作はロマンスをメインテーマに据えているものの、「人生は過ちからより良いものにできるはずだが、恣意的に記憶を除去(過ちを忘れることが)できるならば“人間的な成長”はなくなるのか?」といった投げかけもあるだろう。フツーのロマンスにはない哲学的なテーマやメッセージ性を、独自のSF設定があることで難なく伝えられている。筆者は恋愛面での恥ずかしい経験を糧に、さらなる恥を重ねながら少しずつ向き合い成長しているのだが、記憶除去ができるとすればその微々たる成長すらなくなってしまうだろう。ずっと“恋愛1年生”である。
ちなみに、SFらしくやや複雑な時系列となっているが、考察のヒントとして「ヒロインの髪色をレッド・ブルーなどに変化させる」など細かい気配りがなされているので、SF初心者も安心して楽しめるだろう。細部までこだわりが感じられるのでスルメ映画としても優秀である。
もし『エターナル・サンシャイン』をSFスリラーっぽくするなら?(ネタバレあり)
秀逸なSFロマンス映画『エターナルサンシャイン』だが、やはりジャンルに横たわる課題「SF設定から生じる問題の現実的な解消」について完全には払拭できていない。
例として記憶除去が及ぼす社会的な問題がある。記憶除去のサービスが一般社会へ浸透しているとすれば、ビジネスシーンに問題が頻発するだろうし、問題に対する責任の所在も劇中である程度明確にしておくべき。本作ではその辺りが曖昧で、主要人物以外の除去ケースは描かれず社会的な影響が不明瞭。サービスを提供する医療施設の規模感や知名度も濁されている。
本作は意図的に「記憶除去と社会の接続」を排したからこそSFロマンスとして大成功しているのだが、なんとなくシリアス路線の本作も観てみたかったりする。そこでこのたび中身を少しシリアスっぽく膨らませ、『エターナル・サンシャイン~彼女の記憶を取り戻すために~』なる安っぽい邦題SFロマンス映画を妄想した。
『エターナル・サンシャイン~彼女の記憶を取り戻すために~』
冴えない男・ジョエルとその彼女・クレメンタインは、喧嘩の末に互いの記憶を除去して違う人生を歩むことに。ジョエルがクレメンタインとの記憶を無事に除去する一方で、クレメンタインはジョエルとの記憶だけでなく家族や友人との記憶も失ってしまう。クレメンタインの友人たちは彼女の社会的復帰を目指し医療ADRなどを進めながら、彼女の記憶回復のカギを握るジョエルの元を訪れる・・・・・・。
上記のように、本作は社会との接続を意識すれば、シリアス気味に膨らますこともできるかもしれない。誰か作ってみてくれないかな~(雑)
『アバウト・タイム』(リチャード・カーティス監督)
2013年公開のSFロマンスの良作。『エターナル・サンシャイン』ほどのクレバーさはないものの、明るくポップなストーリーは観るものに元気や勇気を与える。筆者が思うアラサーカップル・夫婦に観てほしいSFロマンス映画の堂々第二位。ちなみに一位は『ファーストキス 1ST KISS』。
『アバウト・タイム』のあらすじ(ネタバレなし)
イギリスの青年・ティムは父から「一家の男たちは代々タイムトラベル能力がある」と告げられる。恋人探しを目的にタイムトラベルを繰り返す中、明るく快活な女性・メアリーと出会う。
『アバウト・タイム』のスタッフ・キャスト
監督・脚本はリチャード・カーティス。『ブリジット・ジョーンズ』シリーズや『ラブ・アクチュアリー』『ノッティングヒルの恋人』などを世に送り出してきたロマコメの名匠だ。1990年代後半から2000年代にかけての“ロマコメ観・恋愛映画観”を作り上げた一人といえる。
主演はドーナル・グリーソンとレイチェル・マクアダムスの2人である。それなりに活躍しているが日本での知名度はあまり高くない。なお、脇役だがスター俳優のマーゴット・ロビーが出演しており、その美貌を活かしてしっかりと作品に花を添えている。
『アバウト・タイム』の魅力
リチャード・カーティス節を存分に堪能できる本作。恋人・家族・友人たちとの愛情を繊細に紡いでいく。大切な人をもっと大切にしたくなること間違いなし。一方で映像面で斬新さはないし、何かとご都合主義な点は目に付いてしまう。特に「タイムトラベルしても世界全体にはそこまで影響がない」という価値観には、開き直りすぎな清々しささえ感じる。
「とにかくハッピーなラブコメが観たい!」という人におすすめだ。ぜひパートナーと一緒にリラックスムードで鑑賞しよう。『ファーストキス 1ST KISS』と同じくらいに、世の中のアラサーカップルを救うSFロマンスだと思う。
もし『アバウト・タイム』がお好きなら?(ネタバレあり)
『アバウト・タイム』は2010年代を代表する現代SFロマンスであり、あらゆるメディアで「おすすめのラブコメ・ロマコメ映画トップ10」のような特集が組まれるたびに必ずランクインしてきた。『ローマの休日』『お熱いのがお好き』『アメリ』『めぐり逢えたら』などの往年の名作よりも知名度は上かもしれない。
あなたも『アバウト・タイム』がお好きなら、本作を手掛けたリチャード・カーティスのほかの作品も鑑賞してみてほしい。前述した作品の中でも筆者のおすすめは『ノッティングヒルの恋人』だ。あの名画『ローマの休日』のように身分差恋愛を扱いながら、違ったセンスで鮮やかに描き切った傑作ロマコメである。『アバウト・タイム』と同じく主役2人が結ばれるハッピーエンドで終わるので気軽に観てほしい。
『アバウト・タイム』のフォロワーともいえる作品も生まれてきている。例えばユーゴ・ジェラン監督による『ラブ・セカンド・サイト』がある。2019年公開のフランス・ベルギーのSFロマンスで、見知らぬ世界へ迷い込みこれまでの自分を顧みるといったストーリーとなっている。全体的にあのリチャード・カーティス作品以上の上品さと、愚直なまでのロマンス徹底主義を感じさせる。SF設定を活かしたちょい捻りのあるオチは、パートナーを軽視してしまった主人公の成長を感じさせるので読後感もかなり良い。
2020年に公開されたマックス・バーバコウ監督の『パーム・スプリングス』もおすすめだ。明るくポップなタイムループロマコメで、それまで『アバウト・タイム』の独壇場だったタイムループ系界隈に一石を投じている。メディアでの取り扱いも数多く、もしかしたら2020年代を代表するSFロマコメになる可能性もあるだろう。いずれの作品もキュンキュンしたい人は必見だ。
『ビューティー・インサイド』(ペク・ジョンヨル監督)
2015年公開の韓国のSFロマンス。毎朝目が覚めるたびに容姿が変わる男性と、彼と愛し合う女性の恋愛模様を描く。韓国産のため洋画よりも感情移入しやすい点もおすすめできる。
『ビューティー・インサイド』のあらすじ(ネタバレなし)
目覚めると容姿が変わってしまう青年・ウジンは、アンティーク家具店の店員の女性・イスに一目惚れする。他人となるべく顔を合わせずに生活してきたウジンだが、自身がイケメンの日に決死の覚悟でイスをデートに誘い、眠らずに3日間連続で幸せなデートを過ごす。しかし、疲れがたまってしまいデート帰りの電車内で寝てしまう。
『ビューティー・インサイド』のスタッフ・キャスト
監督はペク・ジョンヨル。映画のほかにミュージックビデオなども手掛けるクリエイターである。そして主演を務めるのは韓国を代表するスター女優ハン・ヒョジュだ。唯一無二の透明感が魅力であり、『華麗なる遺産』『トンイ』など代表作も非常に多い。筆者の好きな韓国女優の堂々第三位。2トップはまだ秘密にしておく。
ハン・ヒョジュにアプローチする“毎日容姿が変わる男キム・ウジン”を演じるのは123人の俳優たちだ。下記の通り、実績のある個性豊かな俳優たちが同一人物を演じた。日本でも上野樹里が主要なキム・ウジンを演じたことで少し話題になった。
- パク・ソジュン(『ミッドライトランナー』『彼女はキレイだった』など)
- パク・シネ(『美男ですね』『ピノキオ』など)
- 上野樹里(『のだめカンタービレ』『ラスト・フレンズ』など)
- イ・ジヌク(『怪しい彼女』『ボイス2』など)
- ソ・ガンジュン(『君はロボット』『華政』など)
『ビューティー・インサイド』の魅力
まず、「目が覚めると容姿が変わってしまう主人公」という斬新な設定からして勝ち確だ。その主人公をバラエティー豊かな俳優陣が矢継ぎ早に演じるのも面白い。キャストのギャラは多少かかったかもしれないが、費用の掛かるド派手なCGなどなくてもSFロマンスはワクワクしながら楽しめることを証明した。
さらには特異な体質からして共感しにくい主人公よりも、ヒロインの優しさや葛藤などをある程度納得感のある形で描いたのも好きな点。主人公と社会の接続についても完全無視でなく、一応の説明がされていたので良かった。
最大のメッセージは「見た目か中身か」というやや古いネタだが、全体的にスキの少ないSFロマンスの傑作のひとつだろう。
もし『ビューティー・インサイド』のヒロインのイスが“キム・ウジン”だったら?(ネタバレあり)
本作では男の主人公であるキム・ウジンの容姿が変わってしまうのだが、もしヒロインのイスがウジンのような運命を背負っていたらどうだろうか。
そもそもウジンがイスに恋したのは所謂“一目惚れ”なわけだが、その恋愛感情の根幹である容姿が不安定要素になると、中長期的な付き合いはやや難しくなるかもしれない。もちろん、イスの魅力は容姿だけでなく他人への思いやり・素直な性格にも認められるが、ウジンがイスの内面に惚れ込んでいくのもその美貌あってこそ。一目惚れから始まった恋愛に対して、容姿が変わってしまうことはあまりにも高すぎるハードルだろう。
ウジンをはじめ「男性の恋愛観がルックス重視」なことはよく知られるところであり、たとえ彼でなくとも男女逆パターンの結末はバッドエンドを迎えそうだ。オリジナルがハッピーエンドを迎えたのは、あくまでイスがウジンの性格含め徐々に好きになったためであり、容姿が変わること自体も多少は楽しんだからである。イス、考えれば考えるほど素敵な女性だ。筆者もいつかイスのような女性と巡り合いたいものです。
仮にどちらも容姿が変わってしまう設定にしても、互いの疑心暗鬼っぷりをコメディチックに描けて面白そうだ。作中でイスだけが抱いた「周囲へ交際相手を紹介できない、常に秘密の恋愛になる孤独感」は2人共通の悩みになり、さらには互いに新鮮な気持ちで付き合いを重ねられるメリットもある。一方で、お互いに慣れないストレスは想像を絶するもので、そこに何かしら映画的なメッセージ性を込める必要はありそうだ。
『アデライン』(リー・トランド・クリーガー監督)
2015年公開のSFロマンス。派手な演出や仕掛けは一切ない。前述の『パーム・スプリングス』が10〜20代向けのSFロマンスだとすれば、この『アデライン』はまさに30代以上に刺さる大人の映画だろう。
『アデライン』のあらすじ(ネタバレなし)
ある奇跡が重なり、29歳の姿のまま“不老”になった女性・アデライン。愛犬と一人娘を心の支えとして、名前や住所を変えながら若く美しい姿のまま100歳を迎えた。そんな中、青年・エリスと出会い惹かれあっていくが、とある過去の悲恋が彼女を襲う・・・・・・。
『アデライン』のスタッフ・キャスト
監督はリー・トランド・クリーガーで、監督作としてほかに『セレステ∞ジェシー』がある。そして主演は『ゴシップ・ガール』シリーズで一躍スターになったブレイク・ライヴリーで、本作はファッションアイコンとしても支持される彼女の美貌を堪能できる。物語のキーパーソンとして、名優のハリソン・フォードも出演している。
『アデライン』の魅力
全体通しての魅力は“大人の恋愛感”だろう。
ロマンス映画にありがちなポップな演出はなく、カメラは常に陰影を強く映し出す。そして、アデラインを過剰に美しく描くこともない。一方でふとした彼女の笑顔やタイトなドレス姿がアダルトな美しさを醸し出している。あの陰影のある映像でもバッキバキな美貌で納得させるブレイク・ライヴリー・・・・・・思わずため息が出てしまう。
設定上「ヒロインが他人と深く関われない」というのも良い。彼女の背負う不老の宿命(SF要素)と悲恋(ロマンス要素)が上手に混ざっているので、SFロマンスとして無駄が少ない。本作に通底している「二人で老いていくことが恋愛の醍醐味」という価値観・メッセージも素晴らしく、まさに大人のためのSFロマンスといえる。筆者は本作を通して「恋愛に向き合って老いていきたい」と思うようになり、個人的にはエポックメイキングな作品となった。
一方で、SFロマンスにありがちな「SF面での脆弱さ」には目をつむるほかない。序盤にナレーションベースでトンデモ理論が飛び出すので、そういう意味で潔い映画なのだとわかる。また、逃げ続ける選択は正しいのか、なぜその選択を取ったのかの理由付けが弱いのも惜しい。
もし『アデライン』と『ビューティー・インサイド』から今後のSFロマンスを考えるなら?(ネタバレあり)
本作は“ずっと容姿が変わらない苦悩”がテーマの一つにあるが、対極的に韓国の『ビューティー・インサイド』は“常に容姿が変わり続ける苦難”を表現していた。各主人公は正反対の“ルックスに関する病”に冒されたにも関わらず、どちらも他人と深く関われない状況に追い込まれたのは少し面白い。
『エターナル・サンシャイン』でも曖昧だった社会との接続にも関わってくる部分であるが、『アデライン』は名前や住所を変え誤魔化し、『ビューティー・インサイド』では顧客と顔を合わせない職業を選ぶことで最低限の説得力を持たせていたのも共通点。そして「SF設定から発する困難を2人の気持ち(恋愛感情)で乗り越える」というのも同じだ。
真逆のSF設定且つ魅せ方も異なるものの、恋愛成就というベタなゴールに帰着してしまうのはロマンス映画の限界かもしれない。今後、同じようなSF設定のロマンスが制作された際に、悲恋オチやドロドロ三角関係モノになって新しい展開が生まれることを勝手に期待する。もしかして既にどこかで制作されていたりして(笑)
『パッセンジャー』(ジョン・スペイツ監督)
2016年公開のSFロマンス映画で、宇宙を舞台にした壮大なスケールで究極の愛を描く。後述するように観客へ想像させる結末は大人たちだからこそ楽しめるだろう。
『パッセンジャー』のあらすじ(ネタバレなし)
地球外の新たな居住地を目指す豪華宇宙船が、5,000人を乗せて120年間の宇宙航海中。乗客は全員冬眠中だったが、システムの故障から技術者の男・ジムは独り目覚めてしまう。
巨大な宇宙船の中で孤独に過ごすジムは、同じ乗客で冬眠中の美女・オーロラに一目惚れする。ジムは孤独に苛まれながらも、「自分勝手な都合で理想の人の人生を変えて良いのか?」と彼女を冬眠から起こすかどうか葛藤する。
『パッセンジャー』のスタッフ・キャスト
監督は「デューン」シリーズを手掛けたジョン・スペイツ。本作はSFロマンスながら、彼らしいスペクタクルな世界観を表現しているのが特徴だ。出演は『ジュラシック・ワールド』シリーズのオーウェン役としても知られるクリス・プラット、そして『ハンガー・ゲーム』シリーズのカットニス役のジェニファー・ローレンスが務める。『パッセンジャー』は人気シリーズの主演を務めている役者の共演作となった。
『パッセンジャー』の魅力
最大の評価点は宇宙を舞台に真面目なSFロマンスをしているところ。
まず、SFとしての良い部分は、CGによる映像美や心踊るギミック・ガジェットなど大切な部分をカバーしている点である。バーテンダーロボット(アンドロイド)の存在感もグッドで、映像面で飽きが来ることは無いだろう。そのほか5,000人を収容できるほどの大きな宇宙船にもかかわらず、理想郷と対比してなんともいえない閉塞感を演出しているのも良い。一方で、主人公が状況打開に最適な人物を探す素振りすらしないのは疑問だ。運営側のサポート体制が致命的に不十分な点は言うまでもない。
次に恋愛部分の内容にも触れておく。序盤の「自分の欲求のために惚れた相手の人生を変えてしまう」という葛藤は本作特有のものであり、その葛藤に至るまでの描写も比較的丹念だ。終始ハッピーすぎる『アバウト・タイム』やそのフォロワー作品などと比較すれば、本作のSFロマンス映画としての見応えは特筆するものがある。一方で、ヒロインが最終的に共依存気味に主人公を欲してしまうのは、究極的な状況を活かした本作のズルい部分であり少しむず痒さもある。2人が強く結ばれる過程そのものがご都合主義的な点もマイナス点といえよう。
SFロマンスは良くも悪くもご都合主義になりがちだが、本作はその傾向が色濃いためお世辞にも“名作”とは言い切れず残念だ。仮に科学的に精密な『インターステラー』『メッセージ』などの傑作SF映画と比較すると、本作のご都合主義はかなりマイナスな部分として浮き彫りになってしまう。
もし『パッセンジャー』の宇宙船内で家族・コロニーを作っていたら?(ネタバレあり)
本作のオチは「愛し合う2人が数十年の間で自然豊かな環境を作り、彼らの死後に目覚めた乗客がその光景に目を奪われる」というものだが、そこまで2人はどんな風に過ごしていたのだろうか。劇中のごく短い期間では食事やスポーツに興じたり、激しく愛し合うシーンが描かれていたが、あの環境下だとそんな生活はすぐに限界が来ること必至だ。本作のテーマも考慮しつつその生活の在り方を少し考えてみたい。
ラスト描写から考える前提条件
- メイン2人の最期の関係は円満
- ゴール時点で目覚めた乗客の正確な人数は不明(登場人物以外にも早く目覚めている可能性がある)
- 設備やアンドロイドなどは正常に稼働
- 自然豊かな環境もある
まず、2人が円満で生涯を終わったことを考えると、彼らだけで天寿を全うした可能性は少ないだろう。ほかの乗客との繋がりやインターネットを経由したコミュニケーションすら無いため、彼らは想像を絶するストレスを抱えるに違いない。ということは2人も幸せなうちに短命で終わったか、子どもを設けて家族生活を営んだか、さらにはほかの状況も数人目覚めさせて小さなコロニーを形成した可能性がある。
短命の場合は自然死でなく自ら死を選択した可能性もある。ヒロインが作品を書き終えるとともに2人で同時に最期を選ぶ、もしくはどちらかの自然死に伴いもう一方の後追いも考えられるだろう。ちなみに自然豊かな環境については、システムなどに水やりなどをお願いすれば済む話なので気にする必要はなさそうだ。
家族生活の場合は自然な形で営んだことだろう。まず、子作りは何も困らない。避妊具の有無はともかく、あの環境では文字通りいつでもどこでも何もつけずにヤりたい放題なのだ。そして妊娠・出産・教育に関する知識は、船内システムを活用すれば良いだろう。多少なりとも寂しさは伴うが、家族水入らずで小さな幸せを感じつつ生活できていたかもしれない。
最後に、コロニーを形成するのはほか2つよりもやや実現可能性が低い。実現の障壁とはなるのは、劇中で大切に描いた「他人を自分の人生に巻き込むことへの罪悪感」に真っ向から反するということ。さらには、ほかの乗客からすれば2人が“利己的な悪”になってしまうことや、社会性を持つことによるコロニー内の争いの可能性もハッピーエンドへの障壁といえるだろう。
社会は面倒な存在だが、それと少なからず接続していなければ人間は生きていけない。本作は自己と他者、恋愛・社会といった大切なことに向き合わせてくれた。『パッセンジャー』の2人を通して、筆者と同じように鑑賞者各々が想像してみるのも本作の醍醐味の一つだろう。
SFロマンス映画の世界で極上の恋愛体験を堪能せよ
今回はSFロマンスの魅力やおすすめ作品を紹介した。アラサー世代など大人向けなSFロマンスを厳選したつもりなので、監督・キャスト・SF設定など何かしら惹かれた部分があればぜひ鑑賞してみてほしい。筆者は何かしらのヒントや教訓を得られたし、恋愛や社会に傷つけられた心を救ってもらえた。正直、まだまだ紹介したいSFロマンスはあるのだが、それはまたいつかどこかでまとめたいと思う。
さて、筆者もSFロマンスから貰ったヒントや教訓、そして勇気を糧に次の恋愛へ進もうと思う。

1992年生まれ。暴飲暴食大好きなライター・ディレクター。そのほか映画を毎日1本観たり、深夜ラジオとブラックミュージックを聴いたりとヒマであり多忙。好きな映画監督はポール・トーマス・アンダーソン。
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