リミナルスペース(Liminal Space)をご存じだろうか?
簡素で不気味な空間を指すネットミームである。
個人的には、映画『シャイニング』の廊下をイメージしていただくのが、分かりやすいと思っている。
もともとは、階段やロビーなど、空間と空間をつなぐ場所を指す建築用語だったらしい。
つまりは、人がいることを想定した人工的な場所。
しかし、いるべき人がいない「リミナルスペース」は、見る者の不安感を強く掻き立てる。
おかしなことに、その不安感が強烈的にクセになるのだ。
ここ数年、インターネット界隈はこの独特の雰囲気に骨抜きにされていると言ってもよい。
リミナルスペースには、人を捕らえて離さない悪魔の魅力がある。
この世界から逃げ出したいのか、ずっと囚われていたいのか分からない。
あなたの心理の奥底にある「痛気持ち良い」感情を呼び起こす。
人々を魅了する不思議な空間の歩き方を紹介しよう。
YouTube Instagram…から楽しむ
手軽にリミナルスペースを楽しめる優良アカウントをご紹介しよう。
不用意に開いてしまって、無事に帰ってこられるだろうか。
Xではこちらのアカウントが古参と言える。
YouTube
liminal.edit
liminalmoods
APFP
tristantbennett
音楽から楽しむ
リミナルスペースのように、「魅力的な不安」を与える音楽は数多存在する。
それを仮に「リミナル・ミュージック」とでも名付けてみようーー。
You’ll Never Get to Heaven
You’ll Never Get to HeavenをApple Musicで
独特の浮遊感と憂鬱な感情を呼び起こす、唯一無二のアーティストと言って良いだろう。
不安定なサウンドは、聴く者を白昼夢へと誘う。
囁くようなボーカルは儚く美しいが、どこか恐ろしげな雰囲気を感じるのは私だけだろうか……。
American Football
フジロックにも出演したアメリカのロックバンドAmerican Footballには、美しくも不安感を煽るような楽曲が多く存在する。
ひとたび耳心地の良いクリーンなギターに心を奪われてしまうと、底なし沼にはまってしまったかのように、楽曲から抜け出せなくなる。
この沼がほどよくあたたかく、たいそう居心地が良いのだ。
Slowdive
仮に「リミナル・ミュージック」と名付けたが、浮遊感を感じさせる音楽としては、すでにシューゲイズやドリームポップといった歴史あるジャンルが存在する。
シューゲイズを代表するバンドとしては、Slowdiveを挙げないわけにはいかない。
音圧のあるノイズと、物憂げなボーカルが世界を恍惚とさせる。
耽美的なサウンドに、心と身体を沈めて味わっていただきたいものだ。
うっとりとするリミナルスペースに足を踏み入れて、日常の騒々しさを捨て去ってみてはいかがだろうか。
1994年生まれ。男性。ライター/歴史研究者。一橋大学大学院修了。「文春オンライン」、「プレジデントオンライン」、「週刊読書人」などに寄稿。共著に『紫式部と源氏物語の謎』(プレジデント社)。専門は日本近世村落史だが、哲学、文学、サブカルチャーなども得意。澁澤龍彦に憧れている。
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