「世界で最も料理が美味い国はどこか」
この質問にあなたならどう答えるだろうか?
「普通にイタリアンっしょ!」
「いや、韓国料理しか勝たん」
「フレンチに決まってるだろ」
「中華が一番、安くてうまい」
「インドカレーも捨てがたい」
「絶対和食よ、ワ・ショ・ク」
5〜6人も集まればすぐに議論は紛糾するはずだ。
もし私がその場に居たら、最後にこう答えるだろう。
「ベトナム料理が全てを超越する」
なぜならベトナム料理は様々な食文化がミックスし、
それらを柔軟に吸収して独自の進化を遂げてきたからだ。
かつて中国とフランスから植民地支配を受け、ベトナム戦争ではアメリカ、ソ連(ロシア)の影響もあり、多くの食文化が流入してきた。
また、タイやカンボジアと同じく魚醤(ヌクマム、Nước mắm)が調味料として使われ、
酢や砂糖、唐辛子と組み合わさることでエスニックの味わいに。
かといって刺激的な辛さや酸っぱさはなく、日本と同様にダシ文化があり奥ゆかしい味もする。
これらが絶妙に融合して唯一無二の料理が完成する。
中華とフレンチ、世界三大料理のうち2つから影響を受けている。
この時点で既に世界一ではないだろうか?
私がベトナム料理に出会って12年。
これまで現地に15回以上足を運び、北部・中部・南部のベトナム全土の料理を食べてきた。
7年前には北ベトナム出身の妻と結婚し、めちゃくちゃ味に厳しい妻に指導を受けながら、
実家(バクニン省)のお母さんがつくる家庭料理、付近の屋台はもちろん、
日本のベトナム料理店でも貪るように食べ続けてきた。
(ちなみに妻は料理が苦手なため、家でベトナム料理を食べたことは一度もない)
私は昨年体調を崩し、ベトナム料理店に行けない日々が2週間続いた。
こんなに食べられなかったのは、12年間で初めてのことだった――。
身体がベトナム料理を欲していたのだろう。
熱にうなされながら、天国でビール片手にベトナム料理を食べ尽くす夢をみたのである。
そこで私は確信した。ベトナム料理が世界で一番美味いことを。
前置きが長くなったが、この記事をひらいてくれた皆さんにベトナム料理の魅力を布教したい。
ベトナム料理マニアが絶対に食べるべき料理5選と東京にある絶品の店を紹介する!
これを読めば、君もベトナム料理マスターになれるゾ。
フォー(phỏ)は食べるな?

ド定番の牛肉のフォー(Phở Bò)
「ベトナム料理って、知ってる?」
「あぁ、フォーね。美味しいよ!」
こんな会話を聞くと涙が溢れそうになる。
ベトナム料理はフォーだけじゃないのに。
確かに日本ではベトナム料理=フォーというイメージが強い。
日本にあるベトナム料理店には、必ずと言っていいほどメニューにあるが、
私は絶対に日本でフォーを注文しようとは思わない。
理由は後述しよう。
かといって初めてベトナム料理に触れる方には、定番すぎるメニューであるので、
かんたんにフォーの紹介と日本で食べる際の注意点を記載する。
フォーはベトナム北部が発祥で、米粉から作られるコシのない平たい麺のこと。
長時間煮込んだスープと組み合わせるのが一般的だが、炒め麺やあんかけ麺としても食べられる。
つるつるとした食感が特徴で、クセなくいつでも食べられる。

ベトナム現地のフォー。ベトナム現地のタイガービールと合う〜
代表的なフォーのメニューは2種類で、牛骨ベースのフォーボー(Phở bò)と、
鶏がらベースのフォーガー(Phở gà)だ。
甲乙つけ難いが、迷ったらまずはフォーボーにしよう。
鶏肉よりも牛肉のほうがリッチなのは日越共通であるし、
何よりベトナム料理の風合いをダイレクトに感じられるからだ。
(ただ上級者になると、二日酔いにフォーガーが効くことを知る)
着丼したらそのまま食べる……のもいいが、ここでベトナム料理全体に共通する注意点がある。
卓上調味料を臆せず入れよう。ベトナム人はほぼ100%何らかの調味料を入れる。
ライムを絞り、ヌクマム(魚醤)やチリソース、ニンニク酢をブレンドして
自分好みの味にして初めて究極のフォーの完成だ。

お店によっては食べ方ガイドもある。私はニンニク酢+唐辛子
……とここまで読んだら、「フォー美味しそうやん」とツッコまれそうだ。
でもここからが本題。
現地で食べるフォーはメチャくちゃうまい。
でも、日本で食べるフォーは何かモノ足らない!
一体何が違うのか? フォーを100杯食べた私が解説しよう。
まず麺が違う。日本の店のフォーは乾麺が使われるため、コシがまったくない柔らかい食感だ。
それゆえ、人によっては伸びたうどんのように感じてしまう。
一方、ベトナム現地では、生麺が用いられる店が多い。つるつると食べられるのは共通しているが、太さは店によって異なり、「ふわふわでありながら、芯がある」不思議な食感が味わえる。
日本とベトナムで一番違うのはダシ!
フォーはあっさりしたシンプルな味わいのため、使われるダシが命だ。
ベトナムでは食材が想像の10倍以上安いから、途轍もない量の牛骨(or鶏ガラ)、野菜たちが投入される。その中に多彩な香辛料を調合し、ゴトゴト煮込むこと数時間、ようやくスープが完成する。
日本で同じことをしようとすると、原価がかかりすぎてしまうだろう。
私の見立てによると日本のベトナム料理店では、ダシに使う食材の量が少なかったり、一部粉末のダシで代用したりしていることから、ベトナム現地のような深みのあるスープをつくることはできないと推測している。
あとは値段が高すぎる。日本で食べると1杯1,000円以上はざら。
現地の屋台なら30,000ドン〜50,000ドン(約150円〜300円)で食べられるのだから、日本でフォー食べるのを躊躇してしまうのだ。
(”倹約家”の妻は「値段の割に満足できない」といつも嘆いている)
結論、フォーはベトナム現地で食べよう!
しかし、「日本でも美味しいフォーを食べたい」と思ったそこのあなた。
お店選びのコツとしては、フォーの専門店でかつ日本人向けにアレンジしていない店を選ぼう。
つまり、「現地に近い」を軸に探すといいだろう。一つおすすめのお店を紹介する。
首都ハノイに本店があり、2019年に日本に上陸した「PHO THIN」(フォーティン)だ。
現地の「PHO THIN」も行ったことがあるが、かなりの再現度なのでぜひ行ってみて欲しい。
【店舗情報はコチラ】「フォーティントーキョー」
王様も愛した「ブンボーフエ」
ここからはテンポ良く、フォー以外のオススメ料理を紹介していこう。
まずは麺料理から。ベトナム中部の古都・フエの宮廷料理「ブンボーフエ」(Bún Bó Huế)。
フエは19世紀に南北を統一した阮朝(グエン朝)の首都だった。
日本語では「フエの牛肉辛味麺」と記されることが多い。
「ブン」はフォーに比べて現地と味がそこまで変わらないからおすすめだ。
「ブン」はフォーと同じく米粉から作られる麺でベトナム全土で食されている。
断面が細くて丸く、ぷるんとした食感が持ち味で、日本だとビーフンに近いだろうか。
汁麺やつけ麺、鍋に入れたり、生春巻きなどにも入れられるなど汎用性が高い麺で、
実はベトナムでフォーよりも消費量が多い。
しかもブンはフォーよりもバリエーションが多い。魚ベースのブンカー(Bún Cá)、ハノイ名物の焼豚とつくねのつけ麺であるブンチャー(Bún chả)も絶品だ。

現地のブンカーはダシが凄い!

オバマ元大統領も愛したブンチャー。つけ麺のように食べる
だが、前に述べたように、シンプルかつ極上な味わいのダシは日本で食べられるところが少ない。
そこでオススメなのが、ブンボーフエだ。
アジア版ギネスブック「アジア料理100選」にも選ばれたブンボーフエは、牛骨や豚足をベースにレモングラスと唐辛子、「マムルック」(Mắm Ruốc)と呼ばれるエビを発酵させた調味料を組み合わせたスープ。そこにスパゲッティの太さほどのブンを入れ、牛肉や野菜を載せれば完成。
最後に卓上のサテトム(satế tôm,ラー油×エビ)を加えれば、絶品間違い無し。
味はピリ辛でエビとレモングラスの香りが漂ってくる。牛骨の確かな旨みが絡んだ麺を啜れば、濃厚かつ爽快な味がやってくる。何よりベトナム料理を食べたという満足感もある。

辛さが欲しい人はベトナムの唐辛子を入れてみよう。かなり激辛なので2片くらい!
ブンボーフエは日本のベトナム料理店でも食べられるお店が多くなってきているので、ぜひ試してみて欲しい(「孤独のグルメ」の井之頭五郎さんも食べている逸品!)
おすすめのお店はここ!
【店舗情報はコチラ】「ベトナムちゃん」
「ベトナムちゃん」は日本人、ベトナム人両方から人気のあるお店。
大久保はディープなベトナム料理店が多いが、総じてレベルが高い。
日本でも大流行! 「バインミー」
続いて紹介するのは、日本でも有名になったベトナム風サンドイッチ「バインミー」(Bánh Mì)。
少し柔らかめのフランスパンに、ハムやチャーシュー、レバーのパテ、大根とにんじんの漬物(甘酢漬けのなます)や葉物野菜・香草などを挟み、お好みでチリソースをかけて食べる。
まさにフランスの影響をもろに受けたベトナム料理といってもいいだろう。
2024年には「世界で最も美味しいトップ100のサンドイッチ」1位にも選ばれ、国際的にも人気のあるメニューとなっている。
私はパン自体あまり好きではないが、バインミーだけは、謎の中毒性で週に1回食べてしまう。
そして断言しよう、バインミーは現地のものより日本の方が旨い!
(何かと口うるさい私の妻もこれだけは肯定してくれた)
私が初めてベトナムに行ったとき、ハノイで食べたバインミーはどちらかと言うと地味。
選べる具材の種類も少なく、味付けもシンプルすぎて何かつけないと薄いという印象だった。
(しかし100円くらいでとってもリーズナブル!)
「バインミー」(Bánh Mì)は、ベトナム語で「パン」そのものを表わすそうだ。
日本で売られているバインミーは高級な部類に属するとのこと。
帰国後、高田馬場にあるバインミー専門店に行ってみると印象が一変、
「こんな旨くて食べ応えあるサンドイッチが存在したのか!」と驚いた。

肉と野菜が溢れんばかりに入っている
エビとアボカドのバインミー、牛ハラミのバインミーなど、日本人好みのメニューもあるが、一番のオススメは、レバーのパテが入っているバインミー。
パテはベトナムではバターの代わりに塗られるほどポピュラーで、
少しクセはあるものの、レバー特有の臭みはない。
日本にあるバインミー屋さんでは必ずパテのメニューがあるので、ぜひチャレンジしてみよう!
日本バインミー協会(筆者も初めて在を知った)によると、バインミーを取り扱う店舗は日本全国に約500店舗もあるらしい。
ツウなあなたは専門店で食べよう。
一応お店のリンクを貼っておくが、専門店ならどこでも美味しいバインミーが味わえる。
【店舗情報はコチラ】「バインミー シンチャオ 高田馬場店」
ビールの相棒「ボーラーロット」
「好きなベトナム料理は?」と訊かれたら、私が真っ先に挙げるもの、
それがボーラーロット(Bò lá lốt)だ。
牛挽き肉(bò)をロットの葉(胡椒の草の葉)で巻いて香ばしく焼いたもので、日本で言うところの「シソの肉巻き」みたいな料理。これがあったらすぐに注文しよう!
初めて食べたのはベトナム北部のバクニン省。当時20歳だった私は、ホームステイ先のお母さんが作ってくれた料理を見て驚愕した。
全然、美味しそうではないのである。そして若干のグロさもある。

大人数の時は床に座って食べるのがベトナムスタイル
めちゃくちゃ美味い!
中から肉汁が溢れ、巻かれた葉っぱからはクセのない仄かな甘い香り。
ベトナム現地の調味料だけ(ヌクマムとレモングラス、ターメリックなどの香辛料)で味付けされているのに、なぜか味噌の味がする。パクチーのような独特さもなく、気がつけばビールが無くなっている。
昼に現地のお父さんとビールを飲みながらボーラーロットを食べていたのだが、お父さんはふいにバイクに乗り込んだ。
「これから出掛けるのですか?」訊ねると、
「ベトナムではビールは酒に入らないのさ」と答えて颯爽と去っていった。
いい思い出だ。
以来、ベトナムに行くたびにレストランや屋台でボーラーロットを注文してしまう私である。
残念ながら日本で食べられるお店は多くない。が、再現レシピもあるので作ってみよう。
こちらは2025年3月現在で999万回以上再生されている人気動画(上級者向け)。
お店で食べたい方は、東京ではないが、神奈川にある本格ベトナム料理店で出しているそうなので、興味があったら足を運んでみて欲しい。
【店舗情報はコチラ】「タンハー」
たまには豪華に。皆でcon vịt(アヒル肉)食べよう!


ベトナムで買うとこんな感じ。大体日本の半値くらい。
最後に紹介するのはアヒル肉のロースト。いわば「ベトナム版北京ダック」だ。
私は好きすぎて、日本でも1ヶ月に一度は食べてしまう。
これを日本人に布教するためにこの記事を書いたと言っても過言ではない。
中華料理で北京ダックといえば当然、高級料理の部類となる。もちろんベトナム現地でも高級なほうではあるのだが、いかんせん物価が安いため庶民でも手が出やすい。
親戚が集まったりする際に屋台で買って家で食べることが多い。
con vịt(コンヴィット)はベトナム語で「アヒル」そのものを意味する。
正式には「Vịt quay」(ヴィットクアィ)が、アヒル肉のローストを表わす単語なのだが、現地のベトナム人はなぜか「con vịt食べる?」などと言う。
(余談だが、You Tubeで「con vit」と入力すると、子どもに大人気のアヒルのキャラクターが出てくる)
味はとにかくうまい!
鶏肉よりも身が詰まっていて弾力があり、噛めば噛むほど旨みが出てくる。程よい柔らかさなのに脂っぽさは全くなく、さっぱりとして飽きずに食べ続けられる。別添えの醤油(日本のもの近い)ベースのソースや、既出のヌクマム(魚醤)、そのほか岩塩にライムと唐辛子を絞ったものを付けると食べる手が止まらない。
中華料理で出てくる北京ダックと違うのは、ベトナムでは必ず骨付きで食べるという点だ。
ベトナムでは鶏肉を食べる際でも、基本的に骨付きである。いや、9割方骨が付いている。
なぜか。ベトナム人の考えでは、「骨の周りの肉がうまい」という価値観があり、どんなに手が汚れようとも骨にむしゃぶりついて食すのが基本だからである。なのでcon vịtを食べるときは手がベタベタになるのを覚悟し、骨の髄まで食べ尽くそう。
ここまで読んだあなたに朗報だ。
この「ベトナム版北京ダック」、日本でもまったく同じ味が食べられるのだ。
ベトナム料理店で食べることもできるのだが、おすすめはお店で予約してテイクアウトすること。

これで半羽分。醤油ベースのソースと大根と人参のなますが付いて1,600円!
相場は大体、半羽分で2,000円。写真を見ても分かるように3〜4人でも充分な量だ。
最近ではUver Eatsで注文できる店も出てきた。
まずは最寄りのベトナム料理店で予約できるか確認してみよう。絶対に損はしないはずだ!
下記のお店はブンボーフエも美味しいと評判! まずは行ってみよう。
【店舗情報はコチラ】「ハイズォンクアン2」
まとめ ベトナム料理はハマると抜けられない。
「パクチー苦手なんですけどっ!」
そんな声も聴こえてきそうだが、安心してほしい。
私も得意ではないし、ベトナム人にもパクチー嫌いな人は多いからだ。
ベトナム料理にパクチー不要! 堂々とパクチー無しで注文しよう。
実はおすすめしたいベトナム料理は山のようにある。
(Nem rán/bánh cuốn/Bún riêu/sinh tố bơ…)
が、入門編としてまずは確実に沼れる本当におすすめの料理を5つ紹介した。
ハマったらどんどん新しいベトナム料理にチャレンジしてみよう!

1994年生まれ。社史編集者。某国公立大学経済学部卒業。酒と車、ベトナムをこよなく愛する。得意分野は経済思想史ほか、世界史、哲学。既婚者。30歳を機に家と車を購入したことで、ローン地獄に追われている。
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