アナタは“悪女”をお好きだろうか?
自身の目的のために美しさと色香で相手を惑わし、時には社会全体を巻き込んで問題を引き起こす厄介な悪女たち。危険な魅力のある悪女は、これまで多くの映画で描かれ、数々の名シーンを演出してきた。
今回は筆者が魅惑的な「悪女映画」の歴史を概観しつつ、おすすめの作品を紹介する。映画ファン・エンタメ好きに刺さるだけでなく、恋活・婚活中の読者には健全に恋愛するための参考になること間違いなし!?
- 悪女映画とは人間の怖さを堪能できる映画ジャンル
- 悪女映画の歴史的な変遷
- 時代を彩る「悪女映画」10選! ネタバレなしで淫靡な魅力を紹介
- 【欲深き高慢な悪女】郵便配達は二度ベルを鳴らす(1946年)
- 【欲望と愛の狭間で揺れ動く悪女】めまい(1958年)
- 【ポップなナチュラルビッチ悪女】ダーリング(1965年)
- 【男を魅了するベーシック悪女】白いドレスの女(1981年)
- 【狂気のストーカー悪女】危険な情事(1987年)
- 【全てを兼ね備えた全知全能悪女】氷の微笑(1992年)
- 【キレイな身体と闇深い心を持つ悪女】スイミングプール(2003年)
- 【社会全体を巻き込む稀代の悪女】ゴーン・ガール(2014年)
- 【アメコミ最狂の悪女】ハーレイ・クインの華麗なる覚醒(2020年)
- 【ネオンカラーが似合う孤高の悪女】プロミシング・ヤング・ウーマン(2020年)
- 悪女映画の魅惑的な世界にハマってみないか?
悪女映画とは人間の怖さを堪能できる映画ジャンル
そもそも今回特集する「悪女映画」とは、筆者が勝手に名付けた映画のジャンル。大枠的には「サスペンスを中心にホラー・サイコ・ドラマなどの要素を含みながら悪女(もしくはファムファタール)が縦横無尽に活躍する映画」と捉えて差し支えない。女性の怖さやサスペンス/サイコ的な展開を堪能できる作品が多い。
そのため、2017年公開の韓国映画『悪女/AKUJO』のようなアクション作品は、今回の定義から基本的に外している。もっと人間の抱える狂気・高慢さ・色気を感じられる「悪女映画」に絞り、その奥深い魅力を伝えていこうと思う。
悪女映画の歴史的な変遷
ここで悪女映画の歴史を軽くおさらいしていく。記事後半に変遷に沿っておすすめ作品紹介もするので、先だって簡単に悪女映画の歩みを概観してみてほしい。
サスペンス映画の勃興と悪女映画(1940年代~1970年代)
悪女映画の本道はサスペンスであり、換言すれば悪女映画はサスペンス映画のサブジャンルともいえる。そう考えると悪女映画が映画界で本格的に台頭したのは、1940年代頃からと考えられるだろう。サスペンス映画の帝王アルフレッド・ヒッチコックをはじめ、人間の狂気などをセンセーショナルに描く作り手が活躍し、悪女を劇中キャラクターの一人として登場させる機会が増えた。
とはいえ、オードリー・ヘップバーンやマリリン・モンロー、グレース・ケリーといったハリウッド黄金期後半の1950年代を彩った人気女優たちは「悪女」をあまり演じなかった。しいて言えば、モンローとともに「セックスシンボル」として大活躍したフランスのブリジット・バルドーが、『素直な悪女(1956)』にて明るいビッチを演じているくらいだろうか。
悪女映画はどうしても刺激的なシーンが多くなる傾向にあるため、規制の厳しい当時のハリウッドでトップスターが悪女を演じるのはハードルが高かったのかもしれない。例えば悪女映画黎明期の代表作『郵便配達は二度ベルを鳴らす』などでも過激なシーンは皆無で、後年の悪女映画よりもマイルドテイストなのが特徴である。
悪女映画の全盛と強く美しい女性像の確立(1980年代~1990年代)
悪女映画の全盛期は『白いドレスの女(1981)』の公開から『氷の微笑(1992)』が大ヒットした頃までの10数年間といえるだろう。ハリウッド黄金期の悪女映画よりも、かなりエロティック且つシリアスなテイストの悪女映画が多く、センセーショナルなテーマを含んだ作品群は世間の注目を集めた。
1990年代初頭、アメリカでは女性たちが「自分らしさ」を開放していくフェミニズム運動を展開、それに呼応するように同時期の悪女映画のアイコン『氷の微笑』のシャロン・ストーンは非常に力強く美しくシーンを彩った。従来の悪女映画よりも、過激に女性の怖さや強さを表現した点は当時の社会性を反映していたのかもしれない。
悪女と社会問題の接続(2000年代~現在)
時代は下り、2000年以降もポツポツと悪女映画は作られているが、全盛期と比べれば小粒な感じが否めない。だからこそ2014年公開の大傑作『ゴーン・ガール』は突出した存在として光り輝き、悪女映画史に残る金字塔となった。また、昨今の悪女映画は「悪女をメインに据えつつ、ジェンダー・身分社会・メディアの在り方など社会問題と接続する」ことで、テーマが複雑化・重層化しつつあるのも大きな傾向だろう。
余談だが、個人的には人気女優アン・ハサウェイにも徹底したグロさと酷さのある悪女を演じてほしい。『プリティプリンセス』『プラダを着た悪魔』『マイ・インターン』などでティーンへ愛想を振りまくのも良いが、40代の内にぜひとも無慈悲な悪女を演じてみて欲しいものだ。
時代を彩る「悪女映画」10選! ネタバレなしで淫靡な魅力を紹介
ここで数ある悪女映画の中でもおすすめの10作品を紹介する。映画史に残る傑作・名作から、ちょっとニッチな佳作まで取り揃えている。悪女の魅力に沼りたい奇特な方はぜひ参考にしてみてくれ。
【欲深き高慢な悪女】郵便配達は二度ベルを鳴らす(1946年)
悪女サスペンスの古典であり、テイ・ガーネット監督が手掛けた知る人ぞ知る名作映画。同名小説の3度目の映画化でありそれなりのヒット作だ。「愛に飢えた人妻と放蕩男が邪魔な存在である人妻の夫を殺害しようと計画するが・・・」といった内容で、古典的フィルムノワールとしてみれば見どころ盛りだくさん。
特に悪女“コーラ”を演じるラナ・ターナーのやりすぎなくらいの初登場シーンは、観客の視線を一気に釘付けにする。セックスシンボルの一人として名を馳せた彼女の代表作であり、官能的で危うい美貌を堪能できる。
悪女を演じるのはラナ・ターナー
本作の悪女はラナ・ターナーが演じている。彼女は煌びやかなブロンドの髪と抜群のプロポーションで、世の男性を魅了していた。作品にあまり恵まれず女優生命は長くなかったが、マリリン・モンローやブリジット・バルドーといった「セックスシンボル」の先駆け的存在として名を馳せた。
後年の悪女たちよりもラナ・ターナーの表情が豊かで感情を読み取りやすくなっているためか、自分の利益を最優先するサイコパス感やミステリアスな雰囲気は鳴りを潜めている。その一方で悪女らしい欲深さや高慢っぷりが目立ち、特に結末の罪深さは悪女史上トップクラスといえるだろう。
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』のコーラってどんな悪女?
- 男を惑わすオトナな色気:★★★★☆
- 健気な可愛さ・可憐さ:★★☆☆☆
- 計画性のある狡猾っぷり:★★★☆☆
- 徹底した貪欲さ・強欲度合い:★★★★☆
- 圧倒的な狂気やサイコパス性:★★☆☆☆
悪女サスペンスの中では淡白な性描写
原作小説はセックスや暴力の描写が激しいことで知られるが、本作はハリウッド黄金期の厳しい規制(ヘイズコード)もあり過激な性描写などは皆無に等しく、もちろんラナ・ターナーのトップやヘアーの解禁もない。そればかりか犯行シーンですら直接的な表現を避けている始末。悪女サスペンスならではの「エロス」な展開を期待すると肩透かしを食らうだろうが、そういった描写が苦手な人であれば寧ろおすすめだ。
【欲望と愛の狭間で揺れ動く悪女】めまい(1958年)
ヒッチコック映画の最高傑作とも称され、サスペンス・スリラー・ホラー・ラブロマンスなど多様な色彩を感じさせるのが特徴。物語は「高所恐怖症の刑事・スコティは旧友から『奇行の目立つ妻を調査してほしい』と依頼され、妻・マデリンの尾行を開始するのだが・・・」といった展開でスタートする。名優ジェームズ・ステュアート演じる主人公が落ちぶれていく姿を、ヒッチコック流の斬新演出で表現していく。
この『めまい』は革新的な映像演出による独特な雰囲気のほか、登場する悪女“マデリン”の魅力においても高い評価を得た。格好良さと色気を纏う彼女からは、ヒッチコック映画の名ヒロインであるグレース・ケリーと一味違う魅力を感じられる。その溢れんばかりの魅力は、あのジェームズ・ステュアートが(劇中とはいえ)惑わされ情けない醜態をさらすほど。2人のやり取りではロマンチックな雰囲気もあるため、悪女映画好きやサスペンス愛好家だけでなくラブロマンスを観たい人にもおすすめだ。
悪女を演じるのはキム・ノヴァク
悪女のマデリンを演じるのはキム・ノヴァク。モデル出身の映画女優で、1950年代を中心にハリウッドで大活躍した。美しさと妖艶さで世間を魅了した女優であり、『めまい』など数多くの映画に花を添えている。劇中ではパリッとしたコンサバ系ファッション、自慢のブロンドヘアをアップしたスタイルでありながら、彼女が内包する色気やゴージャスな魅力があふれ出ている。序盤の彼女はクールな表情をあまり崩さないのだが、中盤以降の素顔がなんとも健気だ。キム・ノヴァクはギャップ萌えもできる難しい悪女を演じ切っている。
『めまい』のマデリンってどんな悪女?
- 男を惑わすオトナな色気:★★★★☆
- 健気な可愛さ・可憐さ:★★★★☆
- 計画性のある狡猾っぷり:★★★★☆
- 徹底した貪欲さ・強欲度合い:★★★☆☆
- 圧倒的な狂気やサイコパス性:★☆☆☆☆
アルフレッド・ヒッチコックの才能を味わえる名作
本作は「ヒッチコック映画」の中でも最高傑作と名高い。その理由の一つがサスペンスをベースにしながら、ホラー・ラブロマンスなども楽しめる点だ。ラブロマンス要素はキム・ノヴァクを中心とした豊かな感情表現、ホラー的部分がサイケデリックなめまい演出などに垣間見える。本作はヒッチコックの映画監督としての多才ぶりを贅沢に堪能できるのだ。
【ポップなナチュラルビッチ悪女】ダーリング(1965年)
コメディタッチでポップ、ちょっぴり胸糞な悪女映画の一つ。「一人の一般女性が自身の“幸せ”を求め続け、男性たちを魅了、その身一つで成り上がっていく」というのが基本のストーリーラインである。非常にシンプルな展開で、うがったメッセージ性もあまり想定されないが、現代でも通用するラブコメ的なキラキラ感が気楽に楽しめる娯楽作。
悪女“ダイアナ”は「幸せ」への底知れぬ欲求を満たすために行動し、それに伴う僅かな罪悪感は新たな出会いによって忘却する・・・そんなナチュラルビッチ悪女だ。どれだけ男と愛し合い、どんな環境に身を置いても満たされない彼女。その人生の帰着はハッピーエンドorバッドエンド、一体どちらになるのだろうか?
悪女を演じるのはジュリー・クリスティ
1960年代から活躍し続けている女優で、『ダーリング』でアカデミー主演女優賞を勝ち取りトップスターの仲間入りを果たす。キュートな笑顔とそこはかとない色気は当時の男性たちを魅了した。本作では彼女がロンドンの街並みでキュートに振る舞う姿に首ったけになること間違いなし。
『ダーリング』のダイアナってどんな悪女?
- 男を惑わすオトナな色気:★★★★☆
- 健気な可愛さ・可憐さ:★★★★☆
- 計画性のある狡猾っぷり:★☆☆☆☆
- 徹底した貪欲さ・強欲度合い:★★★★★
- 圧倒的な狂気やサイコパス性:★★☆☆☆
【男を魅了するベーシック悪女】白いドレスの女(1981年)
後の名作悪女映画『氷の微笑』をはじめ様々な作品に影響を与えた佳作。暑い夏のフロリダを舞台に、不倫カップルに巻き起こる事件を刺激的に描く。セリフ回しやキャラクター、ストーリー展開などはベタベタであり、プロットは名作『郵便配達は二度ベルを鳴らす』でも描かれていた不倫サスペンスものに近い。
とはいえ、悪女の“白いドレスの女”が持つ危険な美しさにはたしかな魅力がある。美しさと強さがありながらも健気な振る舞いも見せ、相手に「このぱっと見で美しく逞しい女の本当の弱さを知っているのは俺だけだ」と思わせる。そして男の人生の歯車は静かに狂い始め、最後には奈落の底に落ちていく・・・。そんな悪女映画のお手本のような存在『白いドレスの女』、一見の価値アリだ。
悪女を演じるのはキャサリン・ターナー
本作の悪女“マティ”を演じるのはキャサリン・ターナー。1980年代に美人女優として名を馳せ、以降も精力的に活動している。ほかの名悪女たちと同じく、ひとたびシーンに登場した際の存在感が抜群。『白いドレスの女』では色気と知性、強欲さを兼ね備えたパーフェクト悪女を演じ切っている。
『白いドレスの女』のマティってどんな悪女?
- 男を惑わすオトナな色気:★★★★★
- 健気な可愛さ・可憐さ:★★☆☆☆
- 計画性のある狡猾っぷり:★★★★★
- 徹底した貪欲さ・強欲度合い:★★★★☆
- 圧倒的な狂気やサイコパス性:★★★☆☆
悪女映画全盛期の口火を切った話題作
本作は1981年に公開され、北米を中心にヒットを飛ばした。主演2人の熱演はもちろんだが、緊迫感のあるサスペンス展開が商業的成功へと導いたといえる。この成功が一つのきっかけになったのか、悪女映画は密かな全盛期を迎える。
『郵便配達は二度ベルを鳴らす(1981)』が4度目の映画化を果たし、『殺意の夏(1983)』※1『蜘蛛女(1993)』※2など悪女映画がコンスタントに公開。なかでも後述する『危険な情事(1987)』『氷の微笑(1992)』といった作品は悪女映画の代表格であり、映画史にその名を残している。『白いドレスの女』のヒットは後年の良質な悪女映画誕生に影響を与え、悪女映画全盛期の到来をもたらしたエポックメイキングな作品といえるのだ。
※1『殺意の夏』:1983年公開のフランス映画。南仏の田舎を舞台に復讐に燃える悪女が暗躍する。フレンチ悪女映画らしい退廃的な雰囲気を存分に堪能できる。
※2『蜘蛛女』:1993年公開のバイオレンス・エロティック悪女映画の極致。名作『氷の微笑』のシャロン・ストーンがホワイトドレスを身に纏う“白い悪女”ならば、本作でブラックスーツの悪女を演じたレナ・オリンは“黒い悪女”だ。2人の悪女を見比べながら楽しむのも一興だろう。
【狂気のストーカー悪女】危険な情事(1987年)
「ストーカー」の存在を世間に広めたヒット作で、そのセンセーショナルな内容から現在も悪女映画の代表格として名を馳せている。男女間の微妙な価値観のズレがサイコスリラートラブルに発展するというもので、悪女“アレックス”が抱える狂気と愛憎は観るものを恐怖に陥れていく。相手役を務めるマイケル・ダグラスは後述する『氷の微笑』でも悪女を相手取っており、2人の悪女に追い詰められる彼には思わず同情を禁じ得ない。
さて、本作の悪女は従来の「悪女像」からはやや異なるタイプである。クラシカルな悪女といえば「男を手玉に取って自分の目的を達成する女」であることが多かったが、この悪女“アレックス”は「ワンナイトの楽しみをきっかけにストーカー化、溢れる狂気で男を恐怖に陥れる女」だ。一度見たら最後、アナタもその恐怖に打ちひしがれることだろう・・・。
悪女を演じるのはグレン・クローズ
元々は舞台を中心に活動していた女優で、映画界ではこれまで数々の映画賞を受賞・ノミネートされてきた名優の一人。『危険な情事』での狂気に満ちた悪女をはじめ、一癖ある女性を演じる機会が多くそのどれも好評。美しき天才女優はホラーなアクトも思いのままなのだ。
『危険な情事』のアレックスってどんな悪女?
- 男を惑わすオトナな色気:★★★☆☆
- 健気な可愛さ・可憐さ:★☆☆☆☆
- 計画性のある狡猾っぷり:★★☆☆☆
- 徹底した貪欲さ・強欲度合い:★★★★★
- 圧倒的な狂気やサイコパス性:★★★★★
【全てを兼ね備えた全知全能悪女】氷の微笑(1992年)
1992年に公開されたシャロン・ストーン主演の悪女映画の金字塔。その完璧なまでの脚本と展開、きめ細やか且つ大胆不敵な演出は「悪女映画」として完璧だ。シャロン・ストーン演じる悪女“キャサリン”は、悪女映画史に残る「色気・美貌・強さ・可愛さ・知性」全てを兼ね備えた女性。警察の取り調べを受けるシーンでは、彼女のアレが見えると公開当時口コミで話題になり大ヒットの一因になった。
シャロン・ストーンの魅力溢れる刺激的でエロティックなシーンや、相手を務めるマイケル・ダグラスの見事な“ヤラれっぷり”、サスペンス・ミステリーとしての緊迫感ある展開など、本作でしか堪能できない魅力は数知れず。2023年にレストアもされた不朽の名作は、昔と変わらず絶大な人気を誇っている。
悪女を演じるのはシャロン・ストーン
『氷の微笑』の主演女優はシャロン・ストーン。1980年代からキャリアをスタートさせ、1990年代以降に本作のほか『トータル・リコール』『カジノ』といったヒット作に出演し脚光を浴びる。悪女を演じる機会が多く、女性としての美しさ・強さ・エロさを表現させたらトップレベル。
定番のSEXシーンのほか、取り調べでの足組みや細かな視線の移し方など、ちょっとした仕草のなかに、度肝を抜く悪女演技が散りばめられている。文章では伝わらないと思うが・・・彼女がアイスピックで氷を割るだけのシーンでもゾクゾクしてしまうだろう。彼女自身の努力と才能はもちろんだが、製作陣の「シャロン(キャサリン)をいかに美しく、エロく、強く撮るのか?」という気概を感じられる。
『氷の微笑』のキャサリンってどんな悪女?
- 男を惑わすオトナな色気:★★★★★
- 健気な可愛さ・可憐さ:★★★★☆
- 計画性のある狡猾っぷり:★★★★★
- 徹底した貪欲さ・強欲度合い:★★★★☆
- 圧倒的な狂気やサイコパス性:★★★☆☆
悪女映画の一つの最高到達点
本作は「男(刑事)が悪女(容疑者)に次第に惹かれ、理性が壊れ本能のまま堕ちていく」という王道ストーリーを、美しき悪女の絵的な強さで魅力を増幅させるという、クラシカルな悪女映画のテクニックをほぼ踏襲している。しかし、その絵的なこだわりっぷりは従来の作品を完全に凌駕しており、基本フォーマットの悪女映画の最高到達点であり完成形といえるだろう。
【キレイな身体と闇深い心を持つ悪女】スイミングプール(2003年)
フレンチエロスの名手であるフランソワ・オゾンが放つサスペンス映画。「都会で仕事に疲れ田舎に移った女性と、その滞在先で出会った性に奔放な少女の身に起きた事件」を描いており、全体的にローカルでスローなムードが漂う。女性2人の人間ドラマが軸になっているため、互いが内に秘める嫉妬や焦燥感を静かに描写するのも特徴。一方で、女性の狂気や執念はあまり描かれないのが他作品との違いだろう。悪女映画の入門編としてアリな佳作だ。
悪女を演じるのはリュディヴィーヌ・サニエ
『焼け石に水』『8人の女たち』といったフランソワ・オゾン作品に出演し、彼のお気に入り女優の一人。『スイミングプール』では性に奔放な女性を演じ、その健康美と明るい笑顔で観客の目をくぎ付けにしている。精神的に幼く負の感情も抱え込んでいる悪女“ジュリー”の、純粋さゆえの厄介さがなんとも憎たらしい(笑)
『スイミングプール』のジュリーってどんな悪女?
- 男を惑わすオトナな色気:★★★☆☆
- 健気な可愛さ・可憐さ:★★★★★
- 計画性のある狡猾っぷり:★☆☆☆☆
- 徹底した貪欲さ・強欲度合い:★★★☆☆
- 圧倒的な狂気やサイコパス性:★★☆☆☆
フランソワ・オゾンによるヘルシーなエロス
監督のフランソワ・オゾンが描く女性はエロスを感じさせながらも、どこかヘルシーなみずみずしさを共存させている。後年発表される『17才』はじめ、彼はいつでも男女問わず見惚れてしまう、ヘルシー&エロスな女性の世界を描いてきた。とにかく美しい映画を観たい時におすすめ。
【社会全体を巻き込む稀代の悪女】ゴーン・ガール(2014年)
男女間の問題に収斂しがちな「悪女映画」界において、社会問題を巧みに取り込みその存在をネクストステージへと押し上げた大傑作。名監督デビット・フィンチャーの作品群の中ではやや渋めな存在感だが、人間の内に秘める恐怖・狂気・傲慢・焦燥感・覚悟といった感情を見事に描き切った点や、秀逸な2部構成を敷いているところは他作品と比べても遜色ない見ごたえがある。
とある夫婦間のトラブルが妻であり悪女”エイミー”の策略によって、社会・メディアを巻き込んだ騒動になっていく一連の流れをシリアスに描いていく。エイミーは悪女映画史上に残る恐ろしい女性なのだが、夫・ニックにもクズな面があるため、男女ともに楽しめる作品になっている。
悪女を演じるのはロザムンド・バイク
ロザムンド・バイクは容姿端麗・才色兼備な実力派女優で、これまで「007シリーズ」のボンドガールをはじめ2000年代から着実にキャリアを積み上げてきた。『ゴーン・ガール』での“エイミー”は、悪女映画史上で最も徹底した狡猾さと貪欲さのあるキャラクターだが、見事な演技力・オーラで至高の悪女を表現している。
『ゴーン・ガール』のエイミーってどんな悪女?
- 男を惑わすオトナな色気:★★★☆☆
- 健気な可愛さ・可憐さ:★☆☆☆☆
- 計画性のある狡猾っぷり:★★★★★
- 徹底した貪欲さ・強欲度合い:★★★★★
- 圧倒的な狂気やサイコパス性:★★★★★
デヴィット・フィンチャーが描く「悪女映画」の新境地
監督を務めたデヴィット・フィンチャーといえば、『セブン』『ファイト・クラブ』など傑作映画を世に放ち続けている鬼才。卓越したドラマセンスを『ゴーン・ガール』でもいかんなく発揮しており、前代の代表作『氷の微笑』の高い壁を越え、見事に悪女映画の新境地を見せてくれた。
【アメコミ最狂の悪女】ハーレイ・クインの華麗なる覚醒(2020年)
ほかの悪女と毛色が異なるものの紹介せずにはいられなかった。その堂々たるイリーガルな振る舞いは凄まじく、恐らく悪女映画史上断トツで“悪女”だと思う。『氷の微笑』のように色気で相手を惑わす云々の次元ではないし、『ゴーン・ガール』以上に社会全体を巻き込む悪女っぷり。
あらすじとしては「現代ヴィランの代表格“ジョーカー”と別れて特権をなくし、警察・チンピラ・裏社会のドンから追われる身となった悪女“ハーレイ・クイン”が、自身の再起をかけて奔走する」というもの。主演マーゴット・ロビーのキュートでクレイジーな好演と、エンタメ要素溢れる仕掛けの数々に興奮が止まらない。
悪女を演じるのはマーゴット・ロビー
近年、高バジェットの大作や映画賞にてノミネートされる話題作などに頻繁に出演し、すっかり人気女優の仲間入りを果たしたマーゴット・ロビー。各パーツの主張が激しい個性的な顔立ちは一目見たら忘れられないし、その抜群のスタイルにはどんなハイブランドのドレスも霞んでしまう・・・そんな唯一無二の魅力を持った女優だ。
数々の暴挙を繰り返している主人公ハーレイ・クインが愛しく思えてしまうのは、マーゴット・ロビーの明るくキュートな笑顔のおかげ。はたしてほかの同時代の女優に演じられただろうか? いや無理だろう。そう思わせるほどの当たり役だった。
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』のハーレイはどんな悪女?
- 男を惑わすオトナな色気:★☆☆☆☆
- 健気な可愛さ・可憐さ:★★★★☆
- 計画性のある狡猾っぷり:★★☆☆☆
- 徹底した貪欲さ・強欲度合い:★★★★★
- 圧倒的な狂気やサイコパス性:★★★★★
【ネオンカラーが似合う孤高の悪女】プロミシング・ヤング・ウーマン(2020年)
2020年公開、近年の「悪女映画」を代表する作品で、「美しき悪女“キャシー”がクズたちに復讐を果たす」という基本ストーリーを社会問題も取り入れながら鮮烈に描く衝撃作。復讐心・怒り・後悔に囚われた世界で、主演のキャリー・マリガンが美しく躍動する姿は必見だ。
悪女の活躍とともに、クズたちの身勝手さと愚かな姿も描かれるのだが、そのどちらにも人間の弱さや醜さが色濃く出ているのも魅力。ちなみに、製作陣にマーゴット・ロビーがクレジットされており、スター街道まっしぐらな彼女のプロデューサーとしての才能がいかんなく発揮された一作でもある。
悪女を演じるのはキャリー・マリガン
悪女とは換言すれば「男にとって都合の悪い厄介な女」だが、本作のキャリー・マリガンは「弱く隙のある女(都合の良い女)」からその「厄介な悪女」への切り替えが巧み。さらには恋をしている自然な表情を見せたり、過去に囚われ陰のある雰囲気を醸し出したり、サイコっぽさは希薄だが人間的な魅力溢れるキャラクターになっている。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』のキャシーってどんな悪女?
- 男を惑わすオトナな色気:★★★★☆
- 健気な可愛さ・可憐さ:★★★★☆
- 計画性のある狡猾っぷり:★★★★★
- 徹底した貪欲さ・強欲度合い:★★★★★
- 圧倒的な狂気やサイコパス性:★★☆☆☆
ヒューマンドラマの側面がある珍しい悪女映画
悪女映画ではサスペンス・サイコホラーが色濃く出がちだが、本作にはポップなドラマ映画の要素も多分に含まれている。ヒッチコックの『めまい』と同じく、複数の要素が展開されることで飽きが来ない。先の展開が読めやすい感はあるものの、、このドラマチックな2時間は腰を据えて楽しめると思う。
悪女映画の魅惑的な世界にハマってみないか?
今回は悪女映画の魅力について解説した。少しでもその魅力がアナタに伝わったのならば幸いだ。ここまで触れてきた映画のほかにも魅惑的な悪女が登場する作品は数多くあるので、ぜひ自分でもリサーチしてその奥深い世界を堪能してみてほしい。
1992年生まれ。暴飲暴食大好きなライター・ディレクター。そのほか映画を毎日1本観たり、深夜ラジオとブラックミュージックを聴いたりとヒマであり多忙。好きな映画監督はポール・トーマス・アンダーソン。
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