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【2024年最新版】プロのライターがガチで選ぶ、本当に読み応えがあるノンフィクション10選

事実は小説よりも奇なりーー。

よく耳にする言葉であるが、ノンフィクション作品を読んでいると、つくづくこの言葉に共感せざるを得ない。
猖獗を極める死病、残酷極まりない殺人事件、目も当てられない獣害……。
この世界では、我々がしている想像以上に、無慈悲な出来事が起きているのだ。
ノンフィクション作家は、覚悟と信念を武器に、その悲劇と相対する。

夜通し読みたくなるほど迫力があるノンフィクション作品を厳選した。

※各出版社の書誌ページを参考にしています。
※☆★はあくまで筆者の感想であり、「★の多さ=おもしろさ」ではありません。

極上のミステリ小説のような読み味 武田惇志・伊藤亜衣『ある行旅死亡人の物語』(毎日新聞出版、2022)


「行旅死亡人」とは、旅行中に死亡してしまい、引き取り手がいない死者のことだ。
2020年、兵庫県のアパートで女性が孤独死した。残された手がかりは3400万円の現金に、欠損した指、珍しい名字の印鑑……。
あなたはいったい誰なのですかーー?
女性の身元調査に乗り出した記者たちの記録。極上のミステリ小説のような読み味が魅力だ。
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  • 読みやすさ ★★☆
  • 読み応え ★★★
  • トラウマ度 ☆☆☆

読み始めるには覚悟が必要 齊藤彩『母という呪縛 娘という牢獄』(講談社、2022)


「モンスターを倒した。これで一安心だ。」
母を殺した娘は、SNSにそう投稿した。
2018年、滋賀県で頭部・手足がない体幹部だけの女性の遺体が発見された。
犯人はなんと被害者の娘。成績優秀だった娘は、母から超難関医学部への進学を強要され、驚くべきことに9年間も浪人生活を送っていたのだ。
いびつな母娘の関係を描いた1冊。 あまりにも酷い母の言動に、胸が締め付けられる。読み始めるには覚悟が必要だろう。
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  • 読みやすさ ★☆☆
  • 読み応え ★★★
  • トラウマ度 ★★★

どこか懐かしさを感じさせる 比嘉健二『特攻服少女と1825日』(小学館、2023)


伝説のレディース雑誌『ティーンズロード』の立ち上げから終焉までを描いた1冊。
小説や漫画でデフォルメされてきた「レディース」たちの素顔は、いったいどんなものだったのか。
「鑑別所出た後、試験観察で何日間か老人ホームで働いたの。老人のニコってする顔見たらレディースの次に賭けるものはこれだって決めたの」
もちろん、酷い話もたくさんあるのだが、少女たちに寄り添う著者のまなざしが優しく、どこか懐かしさを感じさせる。
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  • 読みやすさ ★★★
  • 読み応え ★★☆
  • トラウマ度 ☆☆☆

規格外の実業家一族に驚愕せよ 児玉博『堤清二 罪と業 最後の「告白」』(文藝春秋、2016)


セゾングループ総帥・堤清二氏が死の直前に振り返った家族のかたちと、グループの栄枯盛衰。
グループの「王様」だった義明氏が、「俺は子供がやるような遊びをしてこなかった」と言い、幹部にお馬さんごっこをさせたという話が凄まじい。
規格外の実業家一族の生活を知りたい方におススメ。
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  • 読みやすさ ★★★
  • 読み応え ★★☆
  • トラウマ度 ☆☆☆

天才一族の栄枯盛衰 アレグザンダー・ウォー 著 塩原通緒 訳『ウィトゲンシュタイン家の人びと 闘う家族』(中央公論新社、2021)


『論理哲学論考』を記し、思想界に弩級のインパクトを与えた天才哲学者・ルードヴィヒ・ウィトゲンシュタイン。彼はハンガリー帝国の首都・ウィーンでヨーロッパ有数の金満家に生まれた。弟は片腕の天才ピアニスト・パウル・ウィトゲンシュタイン。
破格の富、恐るべき才能、凶事の予感――。
二度の世界大戦を背景に、唯一無二の名門一族の100年を描いた傑作。教養好きにおススメしたい。
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  • 読みやすさ ★☆☆
  • 読み応え ★★★
  • トラウマ度 ☆☆☆

手に汗握る医療系ノンフィクション 小林照幸『死の貝 日本住血虫症との闘い』(新潮社、2024)


その病に罹患すると、腹が妊婦のように膨らみ、やがて死に至るというーー。
流行地で暮らす人々は恐ろしい病に手も足も出ず、その地に嫁ぐときは「棺桶を背負っていけ」とさえ言われた。
人々を恐怖のどん底にたたき落としていたのは、なんと側溝に生息する小さな「貝」だった……?
日本各地で発生し、原因不明と恐れられていた「謎の病」との闘いを描いた、鬼気迫る医学系ノンフィクション。
「プロジェクトX」のような空気感の、医者たちの矜持を感じさせる名作。
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  • 読みやすさ ★★☆
  • 読み応え ★★★
  • トラウマ度 ★☆☆

重くのしかかるような読後感 石井光太『近親殺人 家族が家族を殺すとき』(新潮社、2024)


日本で起きる殺人事件の半数は、親族間で起きている。
首を絞めた引きこもり息子の死に顔を見つめていた父、「まじ消えてほしいわ」とLINEしながら、母親を放置した姉妹……。
ほころびのすえに悲劇を招いた家族の7つの事件を描く。
一気に読み終えたが、映画数本を立て続けに観たような疲労感がある。
石井氏の著作には読み応えがあるノンフィクション作品が満載なので、気になった方はチェックしてほしい。
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  • 読みやすさ ★☆☆
  • 読み応え ★★★
  • トラウマ度 ★★★

その「村」に隠された秘密とは? 高橋ユキ『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』(小学館、2023)


「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」
2013年、住人12人の限界集落で、一晩のうちに5人が殺害され、2軒の家が燃やされた。
冒頭の一文は、凶行に及んだ男の家に残されていた張り紙だ。果たして事件との関係は……?
地道な現地調査によって、「うわさ」が飛び交う事件の真相に迫った1冊。
閉鎖的な「村」の陰鬱な空気感とともに、次第に視界に立ち込める霧が晴れていくようなすっきりとした感覚を覚えさせる。自ら村に出向いて調査を進めているかのような臨場感が魅力的。
noteの人気記事からの書籍化という点でも特異な作品だ。
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  • 読みやすさ ★★☆
  • 読み応え ★★☆
  • トラウマ度 ★★☆

ノンフィクション史に燦然と輝く名作 吉村昭『羆嵐』(新潮社、1982)


巨大なヒグマが、2日間のあいだに6人の男女を食い殺した。日本最悪の獣害事件「三毛別事件」を描く。
あまりの迫力に、クマが人骨をかみ砕く咀嚼音や、臓物をすする音まで聞こえてきそうだ。
圧倒的な自然の力を前に茫然と立ち尽くす人々と、ひとりクマに立ち向かった孤高の老猟師の姿を、迫力のうえに迫力を塗り重ねたかのような筆致で描く。ノンフィクション好きには、殿堂入り的に評価されている1冊。
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  • 読みやすさ ★★☆
  • 読み応え ★★★
  • トラウマ度 ★★★

社会の闇を鋭く描く 風間直樹・井艸恵美・辻麻梨子『ルポ・収容所列島  ニッポンの精神医療を問う』(東洋経済新報社、2022)


DV夫の策略で長期入院させられた看護師、拒食症を理由に77日間身体拘束された14歳の少女……。
まさに「強制収容」ともいうべき精神医療界の「治療」に切り込んだ渾身の記録。
思わず何も知らなかった自分を恥じたくなる。社会的な意義も大きいノンフィクション作。
自分が知らなかった世界の裏側を知り、読了後はしばし茫然自失となってしまう。
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  • 読みやすさ ★★☆
  • 読み応え ★★☆
  • トラウマ度 ★★☆
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1994年生まれ。男性。ライター/歴史研究者。一橋大学大学院修了。「文春オンライン」、「プレジデントオンライン」、「週刊読書人」などに寄稿。共著に『紫式部と源氏物語の謎』(プレジデント社)。専門は日本近世村落史だが、哲学、文学、サブカルチャーなども得意。澁澤龍彦に憧れている。

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