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【今知っておきたいワールドミュージック5選】知らない国の、知らない言葉の、知らない音楽を聴いてみよう

「どんな音楽聴くんですか?」

あまりに陳腐な質問である。
偶然帰り道が同じの大して仲良くもない同僚からアプリでマッチした女性まで、
我々は幾度となくこの会話を繰り広げてきた。

「邦楽と洋楽、どっち聴くんですか?」
この問いかけはどうだろうか。

「どっちかといえば邦楽かな……。でも洋楽もたまに聞きますよ!」

何も言っていないに等しい返答がすぐに浮かぶ。
さて、ここで一つ問いたい。「邦楽」「洋楽」とはなんだろう。
「邦楽」は感覚的に理解できる。日本で作られ、日本人が演奏したり歌唱していれば邦楽と言っていいだろう。ざっくりと「日本語の曲」と括っても良いかもしれない。

一方の洋楽。
「邦楽と洋楽、どっち聴くんですか?」
と質問された時に、あなたの脳裏に浮かんだ「洋楽」のアーティストは誰だろう。
あえて例を挙げるまでもないが、大方アメリカ人かイギリス人、要するに英語圏のアーティストではないだろうか。

不思議な話である。
全世界80億人のうち、英語話者はおよそ18%存在しているとされる。
確かに多いが、絶対的多数ではない。
こんなに世界は広いのに、我々は日本語と英語(そして韓国語)の曲しか聴いていない。

端的に言おう。あまりにもったいない!
YouTubeで、Spotifyで、Apple musicで世界中のカッコいい音楽があなたを待っている。
地球上の82%の音楽は、英語以外でできている(多分)。
まだ見ぬ非英語圏の音楽の世界へ、いざ。

ワールドミュージックとはなにか

非英語、ひいては非ヨーロッパ圏の音楽のことを「ワールドミュージック」と呼ぶことがある。この言葉は1980年代、民族音楽学者のB.ネトルにより「ヨーロッパ音楽の要素を取り入れて非ヨーロッパ地域で作られた新しい音楽群」と定義されたが、現在は多義化され、様々なジャンルを内包するとされる。この記事ではネトルの定義になるべく沿い、非英語、非ヨーロッパ圏の音楽で、その地域や民族の音楽の影響を受けながらも、他のジャンルとも融合している音楽を指す。

という御託はさておき、大事なのは、「新しい音楽」である点だ。

つまり、ワールドミュージック=伝統音楽ではないのである。

ワールドミュージックというと、音楽の教科書に載っているようなこんな曲をイメージする人も多いかもしれない。

けっして悪くはない。しかし、これだけではないのだ。

ワールドミュージックは、民俗博物館に展示された埃の被った民族楽器を慈しむだけの音楽ではない。このような伝統的な民俗音楽をベースにしつつも、ヒップホップやロック、ハウスなどヨーロッパ圏で主流の音楽と融合した、最先端の音楽なのである。

現在進行形で進化を続ける、今聴いておきたいワールドミュージックを厳選してご紹介しよう。

反植民地主義を叫ぶ砂漠のジミヘン Mdou Moctar “Oh France”(ニジェール)

Mdou Moctarは、国土の5分の4をサハラ砂漠が占める西アフリカはニジェール出身のギターヒーローである。砂漠の地を這うような、低音で抑揚のないビートと炸裂する超絶技巧のテクニックが特徴。北アフリカ特有のリズム感とハードロックが融合し、聴く者の耳に強烈なインパクトを残す。

また彼らは政治的主張を重要視しており、曲にも貧困や植民地主義への怒り、不安定な政情に対するアフリカの人々の悲しみなどが強く反映されている。

この“Oh France”も旧宗主国であるフランスへの痛烈な風刺が込められた一曲である。

「アフリカは多くの犯罪の犠牲者だ」と訴える“Afique Victime”に乗せてニジェールの子どもたちが踊り狂うライブ映像は必見。

東南アジアの熱気あふれるサイケデリック LAIR “Tatalu”(インドネシア)

インドネシア西ジャワ州、ジャティワンギ出身のサイケデリックバンド、LAIR。

動画を見てもらえれば分かるが、何やらクラフト感溢れるギターをかき鳴らしている。

ジャティワンギはインドネシア最大の粘土の生産地であり、同地域で製造された屋根瓦や陶器を用いて自ら楽器を制作しているらしい。

故郷の地域性や伝統に根差しつつ、ギターという西欧の楽器にそれを取り入れる。まさにワールドミュージックの魅力が詰まった素晴らしいバンドである。

そしてMdou Moctarもそうだが、各地域の政情や文化を音楽という形でリアルに知ることができるのも、ワールドミュージックの楽しみの一つと言っていいだろう。

もちろん肝心の音楽も、東南アジアの熱気や妖しさに満ちたサイケロックで最高に楽しい。

西洋と東洋の狭間で生まれた異色のロック Adamlar “Yaktı Geçti”(トルコ)

ユーラシア大陸の西端に位置し、アジアとヨーロッパ両地域に属するトルコでは、両者の刺激を受け多様な音楽が花開いてきた。

その一つがアナトリアンロックである。アナトリアンロックは、1960〜70年代に人気を博した、トルコの民謡とロックが融合した音楽で、どこかサイケデリックで乾いた印象を受ける。

2013年から活動するAdamlarは、当時のこのアナトリアンロックから多大な影響を受けたと思われるロックバンド。一見欧米のオルタナロック風ではあるのだが、聴いてみるとやはりメロディセンスが普段我々が耳にするものと違い、クセになる。

ナイジェリア発、アフリカのスーパースター Asake “Lonely At The Top”(ナイジェリア)

まずこの再生回数を見てほしい。6,435万回。チャンネル登録者は152万人

日本ではほぼ知られていないが、ナイジェリアにはこんなスーパースターがいるのだ。

2010年代以降、ナイジェリア発の「アフロビーツ」というジャンルが世界を席巻している。

アフロビーツは、西アフリカ発祥の「ソン・クラーベ」と呼ばれる「3・2」のリズムをベースに、ヒップホップを取り入れたポップミュージックの一ジャンル。2022年にはビルボードのチャートに“U.S. afrobeats songs”という週間チャートが設けられたことからもその勢いは明らかである。

Asakeもアフロビーツを代表するアーティストの一人であり、イケイケで華のある、経済大国として急成長を遂げたナイジェリアを象徴するようなラッパーだ。

ちなみに、近しい音楽として南アフリカ共和国発祥の「アマピアノ」というジャンルもあり、こちらは2023年に“Water”が大ヒットしたTylaが有名。

南アフリカとナイジェリアというアフリカの2大国から、次々とスターが輩出される近年。

とにかく今、アフリカのポップミュージックが熱い!

ブラジル=ボサノヴァはもう古い! Jovem Dionisio “ACORDA PEDRINHO”(ブラジル)

ブラジルといえばボサノヴァ……だけじゃない。ゆるくてポップなJovem Dionisioをご紹介したい。2024年のラテン・グラミー賞にもノミネートされたブラジル屈指の人気インディーバンド「なんかいい感じ」という曖昧なワードがこんなに似合うバンドはいないだろう。日本人の耳にもかなり馴染みやすいメロディだ。

ちなみに、ブラジルでロックバンドがチャート上位に食い込むことは非常に珍しいらしい。かといって、ボサノヴァが聴かれているわけでもなく、「バイレファンキ」や「セルタネージョ」といった新興のダンスミュージックが主流のよう。我々の知らぬ間に、世界の音楽はどんどんアップデートされているのだ。

「バイレファンキ」はこんな感じ。「ズンチャッチャズンチャ」を基本のリズムとした、ほどよく治安が悪いダンスミュージック。ブラジルのマイルドヤンキー層に人気だそう。

***

ご紹介したのは世界中の音楽の本当に本当にごく一部。世界にはまだまだカッコいい音楽が眠っている。

言語や文化の壁を超え、ワールドミュージックの扉を開いてみてはいかがだろうか。

  • 記事を書いたライター
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1996年生まれ。編集者。慶應義塾大学卒業。出版社数社を転々とし、現在は専門出版社に在籍。主に学術書の編集を担当している。横浜生まれ横浜育ちの自称シティボーイ。

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