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初めての「国家」のつくり方【30歳からの愛国入門】

30歳にもなれば、立派な大人だ。
働き盛り、日本経済を支えるいっぱしの「日本国民」でもある。
日本国民……? 国民……? 国……?
ふと疑問に思った。いったいぜんたい、「国」とはなんだろうか。

私たちは日々一生懸命働いて、「国」を助けている。
でも、「国とは何ですか?」という質問に、正確に答えられる人がどれほどいるだろうか。

読者のあなたにも、ぜひ考えてみていただきたい。
案外むずかしい質問だということが、すぐに分かるだろう。

この記事は、30歳を迎えた大の大人が、立派な「国民」になってゆく物語である。

王様になりたい

北山:突然だけど、俺は王様になりたいよ。国民から尊敬の眼差しをむけられ、お城で贅沢ざんまい、跪く君たち編集部員……。

高端:考えたこともなかったけど、王様ってどうすればなれるんだろうか。

四ツ谷:王様なんて言ったもの勝ちだろ。だって、世にいる王様たちも、最初は勝手に言い出しただけだったんだから。ほら、今日から北山が王様で、俺たちが臣下だ。良かったな。

北山:なんか宥められてるみたいで腹立つな。そうじゃなくて、正式に国から認められた王様になりたいんだよ。

高端:なにせ、「王様」には歴史が求められるだろ。いまから目指して、北山の代で王位を認められるのは、相当難しいだろう。正式に国から認められたいなら、国家元首の方がやりようがあるかもな。まず、日本からの独立を目指す。

四ツ谷:「国をつくる」か、面白いかもしれないね。実際に、「シーランド公国」みたいに国家を名乗りながらも、どこからも承認されていない疑似国家は存在する。

「シーランド公国」公式HP


高端:
ああ、あの海上要塞みたいな「自称国家」ね。でも、シーランド公国を国家として承認している国はないみたいだね。

シーランド公国公式HPはこちら
【シーランドへようこそ】

北山:たしかに、要塞にしかみえないな。「国です」と言われても違和感はある……。
そもそも「国家」の定義ってなにか分かる?

四ツ谷:そういわれると、難しいかも。教科書的に言えば、領土、国民、主権を有しているとか?

高端:だったら、俺が自分の家で「ここは僕の国です。国民は自分、主権は僕にあります」と言えば国家になるってことになるだろ。Wikipediaには「一定の領土と国民と排他的な統治組織とを供えた政治共同体」とあるけど、この定義には無理がありそうだ。この定義ならば、シーランド公国を国家と見なさいといけない。まず、「一定」ってなんだよ。

北山:そうなんだよ。この設問は意外に難しいようだ。

国家とは、ある一定の領域の内部でーーこの「領域」という点が特徴なのだがーー正当な物理的暴力行使の独占を(実効的に)要求する人間共同体である。

一応、マックスウェーバーの定義は分かりやすいね。たしかに、この日本で「俺がこの国の元首だ。司法は俺が司る」って言って国民たる家族を殴ったとしても、その人は日本の権力に逮捕されるわけだ。これじゃ国とは言えない。

高端:なるほど。「ヤクザは国家に近い」って指摘があるのも納得だね。因みに、この場合の暴力は、拘留や財産の没収などを含むようだ。

北山:どうしてか我々は、新しい国ができる事態をあまり想定しないけど。歴史的なことを言えば、「国家」なんてどこかのタイミングで人工的にできたものだから、これから増えたとしても不思議はないわけだ。

四ツ谷:ふむ、そりゃそうだね。やることないし、「国家」でも作るか。

高端:では、まずモデルケースを探してみよう!

理想の共同体「新しき村」とは?

北山:国家になることは目指していないけど、埼玉県に「新しき村」っていうコミューンがあるみたいだよ。
文豪の武者小路実篤が、理想の社会を作ろうとして創設したみたい。第一次世界大戦が終わってスペイン風邪が猖獗を極めた時代、一定の労働をすれば衣食住が平等に保証される共同体を築いた。最盛期には70人ほどの村人が暮らしていたらしいよ。幼稚園も2クラス設けられていたとある。

四ツ谷:名前にちょっと、ディストピア感があるな。

高端:公式HPがあるね。いまでは住人が3人しかいなくなったのか。それでも、100年経って存続しているのは凄い。どうやら、村内会員には生活費の負担がなく、毎月35000円の支給があるみたいだ。

四ツ谷:え! すごい素敵な共同体じゃないか。収入源も多様だ。
共同体の存続を支援する村外会員からの会費、農業による収益、美術館の入館料、太陽光発電の売上、そのほか寄付など……。国家の原型を感じるな。

北山:Wikipediaの定義だと、国家の要件に近い気もする。「排他性」だけがない。でも、たとえば「新しき村」が排他性を持ったとして、国家として認識されるかというと、そんなことはない。
そう考えれば、「国家」の要件は、他国から国家としての承認をいかに得られているかにありそうな気もするよね。

四ツ谷:それはそうだな。北朝鮮は日本からすれば国家ではないが、ロシアからすれば国家だ。あくまで関係性の問題なのかもね。

北山:まずは、既存の国から承認を得ないといけないのか。やはり、「国家草創」への道は険しい。

高端:うだうだ言っていても仕方ない。とにかく、まずは「新しき村」に国づくりの視察に行こう!

【新しき村へのアクセス】

~電車でお越しの方~
○東武越生線「武州長瀬駅」、村まで徒歩20分ほど
○東武越生線「武州長瀬駅」からタクシーで5分ほど
○JR八高線「毛呂駅」からタクシーで10分ほど

~車を利用の方~
○〔関越鶴ヶ島インター〕、〔圏央鶴ヶ島インター〕または〔圏央入間インター〕を出て10km先の、「埼玉医科大学国際医療センター」を目標に進み、国際医療センターを過ぎ、新設の30号線バイパス道路を500m位進むと新しき村の案内看板がある。そこを右折。
(「新しき村公式HP」より)


北山:都心からのアクセスも悪くないね。王様の視察団が電車で行くのもなんか違う気がするよな。車で行くか。

四ツ谷:いいけど、俺たちは運転できないよ。王様、臣下のために運転してくれよ。

北山:仕方ない……。優しい王様になるために……。

近くのお蕎麦屋さんでお昼ごはん(王様はノンアル)


高端:
おい、何か見えるぞ。到着したんじゃないか?

この道より、我を生かす道なしこの道を歩くーー

北山:武者小路実篤の言葉か? ディストピア感が強まったな。

四ツ谷:見ろ、道路にも「新しき村」と記されている。もう間違いないな。さあ、入村するぞ。


北山:目的は国づくりのための視察だからな。まずは、この共同体の理念を学ぼう。


高端:
この村では、とにかく「利他」のこころが重んじられているようだ。たしかに、小規模の共同体であるならば、わがままな人間が一人いるだけで壊滅の危機に瀕するからな。


北山:
こちらは、開村当時のバンガローの復元。3坪しかないらしいが、寝泊りをしていたのかな。


四ツ谷:
村で一番の施設、新しき村美術館は非常に立派だね。

北山:一見すると閉館中かと思ったが、声をかけたらきちんと係のおじいさんが出てきてくれた。

高端:見るからに「村人」という感じの、感じの良いおじいさんだったな。48年も村で暮らしているらしいから驚きだ。

四ツ谷:ここでは武者小路実篤の絵と言葉が展示されているが、有名な「仲よき事は美しき哉」に象徴されるように、やはり生涯を通してお互いに利他の精神で生きるべきだと主張している。

北山:武者小路家はもともと貴族で、維新後は子爵に列してるからな。精神的な余裕は凄まじいだろう。

臥竜のようにうねる廃墟


高端:
しかし、村は存続しているとはいえ、会員のほとんどは村外会員だ。最盛期に70人もいた村を3人で維持するのは土台無理な話。廃墟が目立つな。

四ツ谷:このあたりの施設は、養鶏場や牛舎を思わせるね。この規模だと、当時の農業収益は馬鹿にならなかっただろう。経済的基盤の重要さがよく分かる。

牛舎のあとか


高端:
ふむ、我々も経済的基盤をいかに持続させるかを考えなければならない。

四ツ谷:公民館では、新しき村の会員が制作した美術品が展示されているらしい。折角だからこちらも見ておこう。


高端:
……。いや、レベル高くないか。

北山:競争を廃して利他のこころを大事にすると、豊かな感受性が育まれる。そんな美しい人たちの目に映る世界、そしてその人たちが描く世界はこんなに輝いているんだな! みんな、俺も王様になって美しい国を作ってみせるよ。

四ツ谷:口だけならなんとでも言えるさ。実際はさっき見た廃墟の通り、共同体を維持するってのは本当に大変なことなんだろう。

高端:さあ、ここまで村中を歩き回っても1時間くらいだったか。自由に出入りができるアトリエがあるらしいから、最後に寄ってみよう。

四ツ谷:鍵はかかっていないな。当然誰もいないけど、電気は自分で付けていいのか……。

高端:わ! ここはすごいな! たくさんのアート作品に、お菓子や飲み物まである。どれも自由に食べて良いようだ。

北山:アートもぜんぶプロレベルだよ。ここには、素晴らしい共同体が出来上がっているんだ。

四ツ谷:東京でこの部屋をレンタルしようと思えばいくらかかるか。素晴らしい「利他」の心だ。ちょっと多めに募金をしておこう。

募金をしてから飲み物をいただく

くつろぐ編集部員たち(自分んちか)

展示としても見ごたえは充分


北山:
おいおい、音楽まで聴けちゃうのか。至れり尽くせりだな。こんな場所があれば、わざわざ別荘を持つ意味なんてないかもしれない。

高端:本当にお互いを思いやる気持ちで成り立っている場所だよな。当たり前だけど、必要以上に綺麗にして帰ろうぜ。

北山:おお、さすがは俺の臣下たちだ……。ついでに、俺の飲んだ珈琲のゴミもついでに持って帰ってくれ。

四ツ谷:「利他」はどうした。そんな国はすぐにつぶれるぞ。

嬉しい心遣い

嬉しい心遣い②

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