晩夏を過ぎると、30歳になる。
30歳にもなれば、ちゃんとしないといけない。
ちゃんとする? ちゃんとするって、どうすればいいんだろうか。勉強や仕事こそはちゃんとしてきたものの、私生活においてちゃんとしたことがないから正解が分からない。なにせ、いまだにピアスを付け、マリリンマンソンのバンTを着て高円寺で飲んでいるくらいだ。
この記事は、20代に囚われた男が、己の若さを片付けるための物語である。
大学生にしか見えない男
四ツ谷:北山ってもうじき30歳になるのに、大学生にしか見えないよな。
北山:は? 具体的に言えよ。
四ツ谷:なんだろなぁ。いまシャツ着てるじゃん。でも、同じシャツを着てても、着こなしがガキ。普通はアラサーが着れば、おっさんに見えるはずなんだけど。
北山:体型の問題じゃない? 173センチ50キロでやらせてもらってるんで。
四ツ谷:いやー、魂の問題だと思うよ。人として未熟なんだよ。入れ物は中身に従う。だって、いまだに太宰だの寺山だの言ってるんでしょ。
北山:俺の青春だからね。中学生のころは毎晩夜更けまで読んでたものよ。
四ツ谷:太宰も寺山もいいけどさ。年相応ってもんがあるよ。
北山:ぶっちゃけ、いまさら読んではいないけどね。でも、間違いなく20代の自分を形成した一要素ではある。
書を捨てよ、町へ出よう
四ツ谷:よし、じゃあ太宰と寺山から卒業しよう!立派な30代になるには、20代の遺物を捨て去らないと。
北山:つまりは何をするの?
四ツ谷:太宰と寺山を生んだ地、青森県で彼らに別れを告げてこよう!
北山:ということで、まずは寺山修司の出身地である三沢市にやってきました。
四ツ谷:心して通れよ。もう20代には戻れないってことだ。
北山:ゴクリ。
濃霧立ち込める町
北山:なんか濃霧が立ち込めているんだけど……。
四ツ谷:お前の30代を暗示しているんだよ。寺山に別れを告げるために、敬意をもって三沢と接しようや。とりあえずタバコを吸わせてくれ。「マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや」だよ。
北山:一番好きな寺山の短歌だ。三沢って米軍基地があるんだね。どこかアメリカ郊外を思わせる街並み。
米軍基地の町・三沢の楽しみ方
四ツ谷:大人の一歩として、夕飯は寿司でも食おう。
北山:ネタのサイズが大きかったな。なんだか大人になってきた気がする。iDeCo!新NISA!健康診断!
四ツ谷:ダメだ。まだノリがガキ臭い。しかも、大好きなウニを最後まで取っておきやがって。
北山:何もない街かと思ってたけど、結構夜中まで賑やかなんだね。ほとんどトー横みたいなもんじゃん。地方都市としては驚きだよ。街ゆく人がみんな若い。
四ツ谷:見るな!視界から20代が入ってくる!
北山:あ、クラブじゃん!!!
四ツ谷:クソ!ちょっと目を離した隙に……。
北山:行ってみようぜ。青森のクラブなんて行ったことないだろ。しかもVIP席が5000円だって。
四ツ谷:それは、確かに気になるな……。チッ。今回だけだからな。
退屈なオトナのための、知的快楽マガジン「アルフソン」を運営する人々。アラサーの編集者、ライターたちからなる。
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